【がんアライアワード2023ゴールド】日鉄興和不動産株式会社の「がんと就労」施策 - がんアライ部
がんアライアワード2023に寄せられた、各社の「がんと就労」への取り組みをご紹介します。
ゴールド受賞:日鉄興和不動産株式会社
業種:557名(2023年3月31日現在)
従業員数:不動産業
働く人を支える制度・ 体制
【1】がんと就労に関して、あるいは社員の健康や安全に関する基本方針等の表明
■健康経営宣言
社員とその家族の健康保持・増進や働きがいの向上、職場環境の整備等によるワークライフバランスの充実に加え、企業理念「人と向き合い、街をつくる。」に基づき、誰もが健康で活き活きと暮らせる街づくりを当社の健康経営の指針としていることを、社長から社員に向けたメッセージをメルマガ・社内報で発信している他、弊社HPにおいても「健康経営宣言」として社外公表中。
>>健康に働ける職住環境・職場作り | 日鉄興和不動産 コーポレートサイト (nskre.co.jp)
■がんアライ宣言
2022までに4年連続「ゴールド」を受賞しており、都度、メルマガ・社内報で全社に向けて発信しているほか、取組実績として弊社HPにおいて社外公表中。
【2】休暇制度
通常の有給休暇/半日休暇に加え、以下制度を整備。
■私傷病休職/欠勤制度
社員が健康管理のため傷病等で休職となった場合でも、病気欠勤開始から半年及び休職開始から半年は給与を全額支給し、経済面等での不安解消に寄与。
■積立休暇制度(最大50日)
期間内に利用しなかった有給休暇については、最大50日を「積立休暇」として保有可能としており、がん治療の際にも利用可能。
■特別積立休暇
長期のがん治療等で更に休暇が必要な人に対し、他の社員が自身の積立休暇を寄付することが出来る「特別積立休暇制度」を制定し、2021年度よりスタート。毎年、約300日弱の寄付が集まる他、実際に利用を希望する社員が一定数おり、がん治療以外にも社員の負担軽減に貢献。
【3】勤務制度
■在宅勤務制度
制度新設時には育児・介護等の事情がある社員に限り「月8日」を認めていたが、コロナ禍以降、全社員対象/日数制限なし、に制度改定。(2023年5月の5類認定以降は、『原則出社』を推奨しているが、個別の事情に応じて引き続き柔軟に対応)
■フレックス制度
全社員(嘱託社員、契約社員含む)を対象に、「5:00から22:00までの間で1日最低3時間勤務/コアタイムなし/中抜け可」として制度導入。(2021年8月)
■シェアオフィス利用
コロナ禍において、外出時/出張時の一時利用、出社制限時の在宅勤務の代替として「月36時間まで」利用可能としていたが、2022年5月以降は原則、外出時/出張時の一時利用として利用許可。
■上記の制度等については、治療のための通院等により、通勤が困難な社員に向けての環境整備にもつながっている。
■(制度導入検討)試し出社/リハビリ出社制度
現状、制度の制定は未完了だが、長期欠勤者/休職者の復職検討のタイミングにおいて、一定期間ならし勤務を実施している他、復職後も短時間勤務から開始する等、人事部や産業医が本人や所属部署との情報連携を密に行いながら本人の状況を把握し、スムーズな復職を促すよう努めている。
■(制度導入検討)ワーケーション
当社が事業として実施しているワーケーション(例:ワーニング・ワーケーションin釜石)において、社員の体験参加実施(今期参加予定:45名程度)
【4】支援体制
■上司とは半年に一回、業務に関する事項を中心とした個人面談を行う制度がありますが、それに加え1on1ミーティングの実施を積極的に進め、病気やプライベートを相談できる体制を整え、コニュニケーションの活性化を図っている。
■上司には話しにくい内容を相談できる体制として、人事部が全員面談を実施。全社一丸での社員のサポート体制を整えている。
■産業医と連携し、各医療機関への紹介を行う他、ビル内テナントの医療機関と親密な関係を構築しており、急病人の対応や専門病院や専門医へのネットワークも充実させている。がん罹患の際のセカンドオピニオンの紹介なども希望に合わせて対応可能としている。
■産業医に直接相談出来る日を月4回設け、社員が自身の健康・体調のことだけではなく、家族の健康についてもサポート出来る体制を整備。
■産業医以外の産業保健スタッフである保健師の来社機会を月8回設定。産業医での相談にハードルを感じる社員の気軽な相談先として、がん罹患者の不安を解消する面談対応など、医師とは違った立場で、相談者に寄り添う体制を整えている。
■その他、健保組合や保険会社の健康相談ダイヤル等、人事を通さずに直接相談できる窓口を設置しているほか、ファストドクター社と業務提携し、平日深夜や休日などに体調不良が発生した際でも近隣の医師の駆付けサービスを利用可能としている(駆付け交通費は無料)。
■がん治療補助制度の導入
がん治療は「入院」から「通院」へシフトしており、働き続けるがん患者が増加している一方、治療に伴う体力低下に加え、経済的な負担も大きな課題と認識。今般、その「経済的負担」に着目し、『がん(悪性新生物・上皮内新生物)診断確定』並びに、『先進医療費用の発生』となった社員に対し、保険会社と提携し、治療補助金として保険金を給付する制度を導入(*参照)。対象者は全社員(嘱託社員・契約社員を含む)。
また、制度導入に際し、新規罹患の社員を対象としているが、直近過去1年間に罹患した社員並びに、治療継続中の社員については、当社が直接、一時金として保険金と同額を給付。【対象者:3名】
一時金を受領した社員からは、「当社に勤めていて良かった」「大変有難い」と多大な感謝が寄せられている。
(*)がん診断確定時:がん診断保険金:「悪性新生物」診断確定時・・・1,000,000円/「上皮内新生物」診断確定時・・・ 100,000円(上記はいずれも一回限り)。
先進医療保険金:先進医療の技術に係る費用相当額として・・・5,000,000円上限/1回あたり
【5】健康増進支援
■がんの早期発見に資する【PET検診】費用を補助する制度を設け、多数の社員が利用している。利用条件として、昨年までは、『55歳以上の社員が、在籍期間中に1回まで』としていたが、今期より『50歳以上の社員が、在籍期間中に3回まで』と適用範囲を拡大し、がんの早期発見に向けた意識醸成にも寄与している。
■定期健康診断については、法定項目に便潜血や腹部超音波を標準項目として追加している他、入社時には胃がんリスク健診(ABC健診)を実施し、胃がん予防対策を講じている。
■がんや脳疾患罹患予防のための、任意検診受診費用の一部を負担する補助制度あり(本制度は、社員のみならず家族でも利用することが可能)。
■治療にかかる費用負担に対しては、がん罹患者の治療費用にも利用できるカフェテリアプラン制度を全社員に適用中。昨年までは『上限2万円(実費費用のうち70%まで)』としていたが、今期から『上限2万円(実費費用の満額まで)』と適用範囲を拡大し、任意検診の受診促進に繋げている。
■また、当社ビルのテナント医療機関との連携施策として、特定の任意検診コース(対象:3コース)の受診の際に上記の補助(健康保険+カフェテリア)を利用すると、一部会社の費用負担もあり、社員の費用負担が0円となる特例制度を設けている。(地方拠点の社員がこの特例を利用する際は、「出張扱い」を認めている)
こうした制度もあり、当社では、年度内に「定期健診」+「任意検診」の両方を受診することを推奨しており、がんを含む病気の早期発見・早期治療に役立てている。
■保健師が、定期健康診断結果を個別に確認し、紙面からでは伝わりにくい結果の詳細なフォローを実施。精密検査の受診に結びつけている他、女性社員限定で、婦人科健診の受診状況アンケートを発信する等、社員の健康管理にきめ細かく対応中。
■禁煙に関しては、衛生委員会の議題として、またメルマガ記事として社員向けに発信し、喫煙のリスクや禁煙の重要性等、リテラシー向上に努めている。
■健保組合とのコラボヘルスの一環として、健康増進アプリ「QOLism(キュオリズム)」を導入し、スマートフォンを利用し、運動や食事を気軽に管理可能としている他、様々なコンテンツの配信により知識習得の機会をすることにより、社員の健康増進をサポートしている。
【6】その他の制度・体制
比較的若年層から発症が見受けられる婦人科系のがん(乳がん・子宮がん)については、任意検診の受診結果からでは健診受診状況が把握出来ない状況にある。そのため、保健師による発信として、女性社員限定のアンケートを実施し、婦人科系がん検診の受診状況や、受診の際の問題点の確認を実施。今後も継続的に実施し、施策の実施・検討につなげていく予定。
働く人を支える風土、環境
【1】啓発、研修
■上記記載の「がん治療補助制度」導入時においては、社員説明会を開催し、がんに関するリテラシー向上もその導入目的の一つとし、丁寧に説明を実施。
■コミュニケーション研修(全社向け)
部内での身近なコミュニケーションにおける課題として「アサーション」に注目し、自身のコミュニケーション方法を見直す機会として研修を実施。日々のコミュニケーションを円滑にし、メンタル不調や体調不良等、すぐに気が付いて相談が出来る環境を整えることの重要性を周知。
また、こうした研修はアーカイブ配信も実施し、出来るだけ多くの社員が長く確認出来るよう努めている。
■上記コミュニケーション研修を含め、社員が自身の健康について習慣的に意識する期間として『健康増進月間』を設定(2022年度は3か月間、2023年度は8月・2月の単月実施)。
期間中、ウォーキングイベントや各種セミナーの実施、健康に関するアンケート等の施策を行い、社員の健康意識向上に努めるとともに、コミュニケーション活性化にも寄与。ウォーキングイベント並びに各種セミナーについては、当社社員に加え、グループ会社へも参加を呼びかけ、グループ企業全体での健康増進活動となっている。
また、今期は新たな取り組みとして、希望者を対象に一か月間限定で『KIRIN適正飲酒プログラム』を実施。日々の飲酒習慣を専用アプリに記載しながら飲酒の一部をノンアルコール飲料へ置き換えることで、自らの飲酒習慣を振り返りながら改善を図るものだったが、全体的にアルコール摂取量が減少し、参加者の一部からは期間終了後も継続したいなど、前向きな結果を得られている。
【2】情報発信
■禁煙等の問題と絡め、がんに関するコンテンツをメルマガ等で発信/イントラに掲示する等、社内周知を実施。
■2023年10月に、社長メッセージを載せたメルマガを発信/イントラへの掲示/社内サイネージ等への告知など、徹底した周知を実施。社長メッセージの内容としては、『健康第一』という大前提のもと、会社としてサポートを実施していくこと、並びに、社員自身がウェルビーイングに向けた意識向上が大切であることを伝えた。
また、がん治療補助制度の新たな制定を受け、若い世代にも重点的に、定期健診・任意検診の呼びかけを行い、健康意識の改善が今後のパフォーマンス向上・WLBの充実へ繋がることを発信。
【3】コミュニティ
現状、コミュニティへの参加等はありませんが、今後の施策を検討中。(社内にも一定数罹患者がおりますので、体験談を頂く/コミュニティを形成する等)
【4】対外的な活動
■新設したがん治療補助制度の内容も含め、当社の健康経営/福利厚生への取組について、以下セミナーに登壇し、対外的に広く周知を行った。
【日本経済新聞社主催:8月30日:登壇者 弊社人事部長】
『VUCA時代に求められる経営戦略としての福利厚生~ウェルビーイング経営に結実する従業員エンゲージメント向上への取組とは~』
当社独自の制度内容や、直近の健康経営の施策の一環として『健康増進月間』等の取組を紹介。また、当社として抱える課題感を踏まえ、この先のヴィジョンを伝えた。
【5】その他の風土・環境
【ダイバーシティの推進…】
■当社では、多様な個性、能力、価値観を持つ社員が、お互いに信頼と敬意をもってつながり合い、その個性や能力を強みとして発揮できる職場環境を整備するため、人事制度の充実や働き方改革の推進に注力。
■女性のキャリアアップ活性化
女性の管理職への意識やモチベーションを後押しするための経団連などが主催する支援講座への継続的な受講や、女性業務職の全社レベルでの集合研修の実施、業務職から総合職への登用に向けた育成計画の推進など、女性のキャリアアップのための取り組みを実施。そうした取り組みが認められ、東京労働局長より女性活躍推進法に基づく「基準適合一般事業主」として認定を受け、2022年「えるぼしマーク」を取得。
■LGBTQへの理解促進
性的マイノリティーの方々が、職場において、差別的な言動を受けたり、日常的なストレスを感じたりすることなく、その個性と能力を十分に発揮できるよう、定期的な研修や資料による社内意識の醸成、職場環境の整備、人事制度の拡充などを実施。
具体的には、『職場のためのLGBTQ+ハンドブック』を作成したほか、関連映画の上映会、書籍の設置等を行った他、直近では、自身が「アライ」であることを示すステッカーや缶バッチの配布を行い、直接的に発信しにくい社員にも配慮しながら、リテラシーの向上・理解の浸透を進めている。
■仕事と育児の両立支援
法を上回る仕事と子育ての両立支援制度の整備や、制度利用しやすい職場環境の整備、ライフステージに応じたキャリア支援などを継続的に行ってきたことが評価され、東京労働局長より次世代育成支援対策推進法に基づく「基準適合一般事業主」として、これまでに4回の認定を受け、次世代認定マーク(愛称:「くるみんマーク」)を取得。
【その他の取組】
■社員同士のコミュニケーションツールとして『Beatrust(ビートラスト)』を導入し、出社と在宅のハイブリッド勤務において、業務内外でのコミュニケーションの場として利用促進を図る。(主に、新入社員やキャリア採用者が重用)
エピソード・思い
今期新たに制定した「がん治療補助制度」の運用時において、実際に社内のがん罹患者と会話を持つことが出来たことが、非常に大きな経験となった。
これまでは、社内に一定数罹患者が居ると認識しながらも、個人の特定が出来ないケースや、直接にその話題に触れることが出来ないケースが多く、『実際の声』を聴くことが出来ず、罹患者のニーズ等への理解が不十分と感じた。
今回の経験から、実際に声を聴くことの必要性・重要性を痛感したので、そうした点を今後の施策検討に行かしたい。(コミュニティ形成や、罹患者からの体験談発信等)
また、罹患についてオープンに出来ない社員も一定数いると思われるが、今後は今以上に、そうした社員がハードルを感じることなく振舞える、風通しの良い組織風土を目指し、必要となる制度・施策の導入を積極的に実施したい。
【1】がんと就労の取り組みを始めたきっかけ
■ここ数年の間にもがんを原因として、在職中に亡くなった社員がおり、まずはがん罹患の予防のための検診機会を増やすことと、社員自らが自身の健康維持に対して意識するための枠組作りから当社の健康経営がスタート。
■今現在も、産業医面談、保健師面談、人事面談の際にがん罹患中である旨を伝えてくれる社員が数名おり、本人が自身の上司や同僚に気兼ねなく相談し、安心して治療を続けながら働き続けることが出来る体制をより充実させることが、当社の次の取組みであると認識。
【2】他社の担当者への応援メッセージ
がんは意外と身近なところに存在します。同僚・友人・家族または自分自身など、ふとした瞬間に見つかるものです。
会社が社員に対し出来る事は、「見つかる前の予防対策の推進」、「見つかった後の仕事と治療の両立」がやはり重要だと思います。もしかすると、それ以外にも、もっと大切なことがあるかも知れません。
色々な方向から、出来る事を考え、必要な声を聴きながら、がんアライのメンバーと一緒に頑張っていければと思います!
講評・コメント
この一年でがん治療補助制度や治療にかかる費用負担の適用範囲拡大など、経済的な支援を着実に進められてます。また医療機関と連携をしてがんを含む病気の早期発見・早期治療につながる手厚い受診支援の体制を整えられています。
並行して全社向けのコミュニケーション研修も実施されており、働く人を支える風土・環境づくりを多角的に進められていることは、多くの企業の模範となると思います。今後のさらなる取り組みに期待をしております。
※上記オレンジ色の枠内の項目は、がんアライアワード2023応募シートでチェックいただいた項目と同一のものです。