がん治療と仕事の両立ができる環境をどうつくればいい?→ボトムから「健康は大切」の意識を広げていくことが重要【ネクストリボン2019レポート】 - がんアライ部
ワールドキャンサーデーである2月4日、公益財団法人日本対がん協会と朝日新聞社主催のもと、『ネクストリボン2019 がんとの共生社会を目指して~企業の対策最前線とこれからの働き方~』が行われました。
パネルディスカッション「がんとの共生社会を目指して」では、さまざまなテーマが議題に上がりました。本記事では、「がん治療と仕事の両立ができる環境をどうつくればいい?」についてご紹介します。
【この記事に登場する登壇者】
テルモ株式会社 人事部長 竹田 敬治さん
日本航空株式会社 代表取締役副社長執行役員 健康経営責任者 藤田 直志さん
コーディネーター:朝日新聞社 上野 創さん
※詳しいプロフィールはこちら
がん治療と仕事の両立ができる環境をどうつくればいい?
朝日新聞社・上野:私は朝日新聞の社会部で記者をしておりまして、自分もサバイバーという立場です。今回は事前に質問を募ったのですが、「最初に何から取り組めばいいのか」「どうやってがん治療と仕事の両立ができる環境をつくればいいのか」という内容が多かったです。まずは藤田さん、今の形になるまでのご苦労について教えていただけますか?
日本航空・藤田:2012年から健康経営に取り組んでいますが、医療職の方たちは「社員の健康を守りたいけど、発信しても社内に浸透しない」と当時悩んでいたんですね。それで私が2017年に健康経営責任者になってまずやったのは、社内へとにかく発信すること。「社員の健康は会社の経営にとって一番大切なんだから、こういう指標を作って取り組むぞ」とやりました。
ただ、それでもまだまだ検診の受診率が低かったり、空港のバックオフィスでは朝からいかにも健康に悪そうなものを食べていたりする。これは一人じゃダメだ、孫悟空みたいに分身をするしかないと、現場に自分の分身となる「ウェルネスリーダー」を作って、健康経営を一緒にやってくれる仲間を募りました。今は280人ぐらいいて、それぞれの地域でヨガ教室やハイキングなど、さまざまなことをやっています。
朝日新聞社・上野:ウェルネスリーダーは挙手制ですか?
日本航空・藤田:そうです。私は月1〜2回は現場を回るんですけど、「ウェルネスリーダーはいるか〜?」と手を上げてもらっていて、ウェルネスリーダーがいないところでは「誰かやってくれない?」という感じで決めていきます。
トップダウンももちろん必要ですが、ボトムからじわじわと、「健康は大事なんだ」という意識を広げていく。これが一番大事で、時間がかかりました。1〜2年ではなかなか進まないですから、辛抱強さが必要だと思います。
テルモ・竹田:がんと闘いながら仕事をしている人は職場に何人かいて、これまでも個別に柔軟に対応はしていたんですけれども、制度を導入することに意味があると改めて感じています。会社が制度として導入することが大きなメッセージになって、「がんと闘う社員を支援する」ということが、当事者にも周りで一生懸命支える人たちにも伝わりました。そういった会社の姿勢が伝わり始めると、相談に来てくれる人も明らかに増えるんです。
ただ実際問題として、たとえ周りの人がそうは思っていなかったとしても、当事者は「迷惑をかけているな」っていう気持ちがどこかにあると思うんですね。本当の意味で、自然な形でお互いに支え合える状態をつくるのは非常に難しいですし、まだまだ我々もやっていかなければといけないことだと思っています。
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▼登壇者プロフィール
テルモ株式会社 人事部長
竹田 敬治 さん
1962年生まれ、大阪府出身。1986年、テルモ株式会社に入社。各部門の人事業務に携わった後、2017年より現職。また健康管理担当として、子会社も含めた健康経営推進の横断組織のリーダーも担い、社員の健康増進に取り組んでいる。2017年には「がん就労支援制度」を設け、治療を受けながらでも柔軟に働ける環境を整備。社内外に明確に発信することで、職場や家族が一体となって支える体制を構築した。医療に携わる企業として、社員の健康は重要なテーマ。社員の健康が企業の持続的成長につながると考え、社員がいきいきと健康で働ける会社を目指している。
日本航空株式会社 代表取締役副社長執行役員 健康経営責任者藤田 直志 さん
1956年、神奈川県生まれ。1981年に入社し、2010年2月に執行役員、2016年4月より代表取締役副社長に就任。2017年度からCWO(Chief Wellness Officer)として健康経営の責任者となる。社員の健康がまず重要との考えに基づき、JALグループ全社員の健康とその先にある豊かな人生、企業理念の実現に向け、先頭に立って健康経営を推進している。
コーディネーター:上野 創さん
朝日新聞社 東京本社社会部教育チーム記者。1971年生まれ、東京育ち。早稲田大学卒業後、1994年に朝日新聞社入社。横浜支局に勤務していた26歳の時に肺に転移した精巣腫瘍が見つかる。手術、抗がん剤治療を受け、1年後に職場復帰を果たしたが、その後2度再発し、入退院を繰り返す。体験を連載記事「がんと向き合って」で公表し、後に出版、日本エッセイストクラブ賞を受賞。その後は社会部で教育をテーマに取材活動をしながら、がんサバイバーの生き方や「いのちの教育」などもテーマとして追い続けている。2010年に担当した連載記事「ニッポン人脈記 がん その先へ」が第30回ファイザー医学記事賞大賞を受賞。