小泉進次郎・鈴木美穂らが登壇「”Cancer, So What?”な社会はどうつくる?」【CancerXレポート】 - がんアライ部
がんアライ部発起人の鈴木美穂が「CancerX」というプロジェクトを立ち上げました。CancerXでは「コレクティブ・インパクト」をテーマに、がん罹患者や医療関係者だけではなく、あらゆる領域や立場を超えて、がんにまつわる課題を解決していくことを目的としています。
ここでは2月3日(日)に行われたキックオフイベント「CancerXサミット2019」での講演「”Cancer, So What?” がんと言われても動揺しない社会へ」の一部をご紹介します。
<登壇者プロフィール>
上野直人(MDアンダーソンがんセンター 乳腺腫瘍内科 教授/写真左)
小泉進次郎(衆議院議員・自民党厚生労働部会長/写真左から2人目)
鈴木美穂(認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事/写真中央)
岡崎裕子(陶芸家/写真右から2人目)
澤田貴司(株式会社ファミリーマート 代表取締役社長/写真右)
「体のこと以上に“社会にどう存在したらいいのか”がわからないことが不安だった」
鈴木美穂:今回は「Cancer, So What?」というテーマですけれども、実は進次郎さん以外の全員が、がんを経験しています。まずはそれぞれが、がんと告知された時のことについて共有したいと思います。
まず私は、24歳の時に乳がんが見つかりました。ものすごく動揺して、その後の未来は一切描けなくなって、この世の終わりかと思いました。もう10年前のことですけど、この時からがんは、私のライフワークの一つになりました。去年までは記者とキャスターをやっていて、その中で、がんと言われて動揺してショックを受け、適切な治療や納得のいく治療ができないまま亡くなっていった方の姿をあまりにも多く見てきました。がんにまつわるさまざまな課題を解決したいという想いが積み重なって、「CancerX」の立ち上げにつながっています。
上野直人:僕は2回がんを経験しています。がんの専門家ですけど、それでもかなり動揺しました。「仕事はどうする?」「食べ物や運動はどうなる?」「どうやってみんなと友達になる?」と、ごく普通の生活に関することが、動揺に繋がっていたように思います。
岡崎裕子:がんを告知された時、あるコマーシャルの契約をした直後だったんです。「仕事はどうしよう」「2歳と5歳の子どもをどうしよう」「育児をしながらどうやって治療をするんだろう」ということが、自分の体以上に不安でした。社会に自分はどう存在したらいいのか、情報がなさすぎて非常に苦労しました。
岡崎裕子:私はがんの話を公の場でするのは今日が初めてです。公表しなかったのは、クライアントに対する思いもありましたけど、やはり一番は子どものことでした。可哀想と思われたくなかったし、ただでさえ母親が病気になって家族が動揺しているのに、周りから子ども達が気の毒な目で見られることに耐えられなくて。
澤田貴司:僕はちょっと変わっていて、胃が悪くて、定期的に胃カメラの検査をしていたんですね。その胃カメラで撮った写真をたまたま僕のクライアントの医師に見せたんです。そうしたら「澤田さんの胃はかなり悪い。このままだと2年後くらいにがんになる」と言われて。
冗談だと思っていたんですけど、その先生に半年に1回ぐらい診てもらっていたら、2年経った時に本当にがんになったんですね。割と悪い胃がんだったんですけれども、ものすごい初期の段階で見つけてくださったし、「99.9%僕が治します」って、先生がはっきり言ってくださったので、すごく安心しました。
鈴木美穂:がんって言われた時に、あまり動揺はしなかったんですか?
澤田貴司:しなかったですね。僕の場合は突然じゃなかったというか、心の準備ができていたことと、あとは先生が素晴らしい方だったことが大きかったと思います。
当時は別の会社の社長だったんですけど、がんのことはすぐに社員にも伝えました。胃を内視鏡手術で切除して、手術をしたその日に自撮りして、「生きてんぞー!」みたいな感じで全社員にメールをして。「社長がいなくなった方がやりやすいです」みたいなことも言われまして、実際に僕がいなくなってすごくいい会社になった(笑)。僕の場合はいろいろな人からサポートをしていただいて、安心して治療ができたなと思います。
がんのことを知り、がんを生活の中心にしない意識を高めることが重要
鈴木美穂:毎年100万人が新たにがんになっているのに、現状はがんになった後にどうしたらいいかが全くわからない社会だと思います。多くの人が、がんのことを何も知らずに、がんになっている。これから日本は、どのような社会になったらいいのでしょうか?
上野直人:医療従事者の立場から話をすると、全員参加型の医療をする必要があると思います。新しい薬や検査がどんどん出て、医学も発展していくから、それを還元すればいいと思うじゃないですか。でも、そのためには臨床試験などに積極的に参加してもらう必要がある。その数があまりにも少ないと、何も動かないわけです。もちろんチョイスは皆さんにあるわけですけど、そこのパーセンテージが少しでも上がったら、医療側の状況は大きく変わると思いますね。
そしてもう一つ大切なのは、がんを生活の中心に持ってこないということ。がん罹患者は、つい病気のことが全ての中心になって、他のことを忘れてしまったり、犠牲にしてしまったりするんですね。でも、自分らしく生きることはすごく重要ですから、「がんを中心にしない」という意識を高めることは、今後の社会を変えていくために重要だと思います。
鈴木美穂:がんに人生を支配されないということですね。私は告知後8カ月間休職をして、母親と妹は会社を辞めて私の看病をし、父親も単身赴任先から帰ってきてくれて、家族全員でがん中心の生活を送りました。その結果、私はうつ状態になってしまった。今考えれば、がんに支配されないで暮らしていくことだってできたなと思います。
岡崎裕子:がんに罹患する前は、化学療法を受けたら日常生活を送ることは困難になってしまうと思っていました。でも、いざ自分が治療を受けてみると、副作用が軽かったこともあって、娘のお弁当は毎朝作れましたし、見た目の問題を除けば、ほとんど通常通りの生活を続けることができました。
そういう事実は、ほとんど知られていないですよね。実際は半分ぐらいの方が日常に戻って、そのまま生活を継続できる病気になっているのに、その認識が社会に足りない。私は子ども達ががんに罹患する可能性が出てくる年齢になった時に、このままの社会でいてほしくないと強く思っています。だから、今日のイベントにも出ようと思いました。
鈴木美穂:裕子さんの子どもたちが大人になった頃には、「風邪引いちゃったのね~」みたいな感じで、がんになっても「少し休んで日常に戻る」ことが普通になるといいですよね。
澤田貴司:がんは会社経営に似ていて、先が見えないと本当に不安になってしまうんですよ。だから、がんになった先のイメージを持てる状態を作ることは、とても重要だと思います。そうなっていけば、がんになっても、ある程度平穏でいられると思うんですね。そこをどう作っていくのかが重要です。
澤田貴司:例えばファミリーマートは最近、「ファミマこども食堂」を始めたんですね。地域のこどもたちが食卓を囲める場を作る取り組みですが、こうした地域に根ざした貢献を、社員一丸となってやろうとしています。がんに関することでも、ファミリーマートでがんの検査ができたり、弁当の売上の一部ががん関連の寄付金になったり、リアルな接点があるからこそ、「知っていれば安心できる」状態を生み出すための何かができるんじゃないかなと思っています。
小泉進次郎:コンビニでがん検診ができる社会は、まさにコレクティブ・インパクトですよね。一人一人が自然と行動を変えていくための仕掛けを、社会の仕組みに入れ込んで、どんどんやっていきたいと思っています。
例えば八王子では、40歳で受診する自治体の特定健診のデータから、「あなたはこのがんのリスクが高いから、がん検診を受けに来てください」と、市民の皆さんに通知をしています。こういう「あなたに」という届け方ができると、さすがに検診行こうって思いませんか? 八王子市民同士の飲み会で「ハガキきた?」「俺来てないよ。それお前だけだよ」「マジで?」みたいな会話が生まれるのもいいですよね。
こういった良い事例の横展開を含めて、厚労部会でも取り組みを始めていて、3月には北海道から沖縄まで、全ての自治体の検診率を初めて公表します。一人一人の行動を変えていく手法を、いろいろな形で政治も行政も取り入れ始めています。
がんの経験者が話をしてくれることで、社会はもっと優しくなる
鈴木美穂:がんは治療だけでなく、予防、検診、治療後の日常生活に戻っていくところ、そして終末期まで、全てのテーマごとにできることがあると思います。だからこそ、どんな企業でも、どんな人でもできることがある。当事者だったら自分の課題を語ることかもしれないし、企業だったら「治療中の家事をラクにするサービスができないか」と考えることかもしれません。それは企業価値につながるはずですから、がん患者のためだけではなく、自分たちのためにもなるはず。みんなが力を合わせて行動し、変えていくコレクティブ・インパクトは、「CancerX」の目指すところです。
上野直人:アメリカで「Stand Up to Cancer」という取り組みがありました。アメリカは医療の進歩が遅いから、もっと治療開発を進めてほしい。そこで女性キャスターが集まって、全米の4大ネットワークのゴールデンタイムに「がんを撲滅するためのドリームチームを作ろう」という趣旨の同じ番組を流したんです。
現実として、医療の中にも権威や派閥はあります。それを取り除いてチームを作り、新しい治療や検査を作ろうというこの取り組みは、何十億というお金を集めました。さらにメディアをモニターにすることによって、「本当にちゃんとやってるのか」というところも、たくさんの人を巻き込んで実現したんですね。日本でもぜひこういうことをやってもらいたいんですよ。やっぱりもっとコレクティブに、大きな枠でやっていくことは重要だと思います。
鈴木美穂:メディアのコネクティブ・インパクトも目指していて、実際に今日のイベントには、メディアの枠を超えてたくさんの方にご参加いただいています。会社や業界にかかわらず、みんなでやっていきたいですね。それでは最後に、コレクティブ・インパクトの中で、自分は何ができるのか、皆さんの立場でできることをお聞きしたいと思います。
岡崎裕子:私は肩書きのある人間ではないので、治療中のファッションや子育てといった身近なところから、皆さんの理解を深めて、新しい一歩を踏み出せるようにしていきたいと思っています。
澤田貴司:ファミリーマートはおよそ17000の店舗があって、55億人の方がお買い物をしてくださっていて、それを支えている20万人の方がいる。とてつもなく大きなインフラで、強烈なインパクトがあります。僕は社長として、この瞬間も頑張って働いてくれている仲間の立場や思いをいかに理解して、どう社会に還元するのかを考えなければいけないと強く思いました。
上野直人:僕は医療専門家なので、より良い治療を提供することがまず自分にできることですけど、それだけじゃ足りないんです。僕がやりたいのは、いろいろな分野の人たちをつなげていくこと。ファシリテイトすることによって、何かお手伝いができたらいいと思うし、それがコレクティブ・インパクトになるんじゃないかなと期待しています。
小泉進次郎:政治家はなかなか信頼されていないですけど、政治家にしかできないことは絶対にあります。がんを経験した政治家だからできることもきっとあって、それを大きな力に変えていくことがコレクティブ・インパクトだと思います。今後の「CancerX」のイベントに、がんの経験がある政治家の方々を呼んで、一緒に何ができるのかを考える場を作ることをやっていきたいと思います。
小泉進次郎:最後に一つだけ言わせてください。僕の番記者の一人に、がん治療中の方がいます。その方に、「ずっとマスクをしていてすみません」と言われたんですね。その時に「俺はなんて想像力が欠けているんだ」と思ったんです。マスクをしている方の中には、がん治療中という事情がある方もいるということに初めて気づかされました。
それ以来、マスクをしている方に対する僕の見方は変わりました。がんの経験者が、経験がない者に話をしてくれることで、今まで見えなかったことが見えるようになる。そうすると、社会はもっと優しく、人のことを思いやれるようになるんです。想像力を持てるように、大切にできるように、皆さんから今後も気づきを与えていただきたいなと思います。
取材・文:天野夏海