活動レポート

がんアライアワード2連続ゴールド受賞のコロプラスト&日立システムズの人事担当者が語る「がん×就労を支える風土・環境づくり」【がんアライ部第7回勉強会レポート】 - がんアライ部

がんアライアワード2連続ゴールド受賞のコロプラスト&日立システムズの人事担当者が語る「がん×就労を支える風土・環境づくり」【がんアライ部第7回勉強会レポート】 - がんアライ部

第7回目の「がんアライ部勉強会」を1月28日(火)、日立システムズにて行いました。今回ご登壇いただいたのは「がんアライアワード」で2年連続ゴールドを受賞したコロプラスト社と日立システムズ社の人事担当者のお二人です。

 

ここでは各社の取り組み内容の発表について紹介します。

 

>>発表後の質疑応答はこちら

がんアライアワード2年連続ゴールド受賞企業コロプラスト&日立システムズに質問!「社内の巻き込み方は?」「実体験を拾い上げる工夫は?」【がんアライ部第7回勉強会レポート】

【コロプラスト】仕事と治療が両立できる環境にある3つの観点

 

デンマークの医療機器メーカー、コロプラスト。日本法人は30年の歴史を持ち、現在の社員数は約150名です。

 

「小さい会社なので予算や人手が足りないなど、リソースは少ないですが、その分合意が取れれば決断は早いです。部署の垣根を越えて助け合っているような会社です」

 

(コロプラスト株式会社 人事部 久保田恵理さん)

 

安心して仕事と治療を両立できる環境には3つの観点があると久保田さんは続けます。

 

仕事と治療が両立できる環境1. 一通りの制度が整っていること

 

予防から継続就労の支援まで、制度や仕組みが一通り揃っているのが理想。その際、制度づくりのポイントは大きく3つあるといいます。

 

1. 企業理念や会社の実情にあった制度であること

「コロプラスト製品を使ってくださるお客さまには、がんに罹患されている方が多くいます。それならば、まずは社員ががんになっても安心して働けるような環境を会社が実現しなければ。制度を導入する際は、目的をしっかり伝えています。社員が『うちの会社らしいね』と思えることがポイントになると思います」

 

2. 人事だけでなく、会社全体で運用すること

「制度ができた後の展開やフォローに、ラインマネジメントが関わることが大切です。まずはマネジャーが集まる会で人事が制度の説明をし、その次は各マネジャーから同じ説明をメンバーにしてもらう。制度利用を促進するメールも人事だけでなく、マネジャーからも送ってもらっています。そのメールを別のマネジャーに『皆さんもぜひ送ってください』と人事から共有するなど、横展開を意識してきました。最近では自走するようになってきていますね」

 

また、全社を巻き込む上で「がんアライの活動にマネジャーを誘うのものオススメ」と久保田さん。

 

「去年の6月の勉強会に経営会議のメンバーを誘って参加しました。私がうるさく誘うので仕方なく2人来てくれたんですけど、勉強会の内容がすごく刺激的で響いたようです。せっかくなら社内に共有したかったので、イントラに2人の感想を載せたところ、それを見た社員が2人に声をかけたり、その2人がそれぞれいろいろな場で感想を語ってくれたりと、アンバサダーのようになってくれました」

 

>昨年の6月の勉強会レポートはこちら

“がん治療中の部下”と上司が対談。目標を下げず、全社表彰されるほどの実績を出せる理由とは?【がんアライ部第6回勉強会レポート】

 

3. 小さく始めてコツコツ育てること

最初から完璧な制度や大規模な取り組みを目指す必要はなく、まずは小さく始めることがポイントだといいます。

 

「例えばがん検診のサポートは、がんアライの活動に参加するようになって始めた制度の一つです。人事としては1万円をサポートしたかったのですが、予算の兼ね合いもあり5000円でスタート。その代わり対象者の年齢制限を設けず、雇用形態を問わず直雇用の方であれば誰でも対象にしています。

 

また、リソースは全て活用しようということで、月1回訪問してくれている産業医の先生に、社員に向けてがんや検診の話をしてもらいました。オンラインでの参加も可能です。こういう取り組みをすると、先生と社員の接点ができるので、その後の健康相談にもつながりやすいという副次的な効果もありました」

 

こうした取り組みの中には、残念ながら上手く運用できなかったものも。「世界禁煙デーに合わせた『令和改元 禁煙ダービー』というキャンペーンは見事に外しました(笑)」と久保田さん。喫煙率を下げるための取り組みを引き続き行なっていくべく、今後の施策を検討中だそうです。

 

仕事と治療が両立できる環境2. 制度が利用しやすいこと

 

制度と同時に重要なのが、その制度を利用できる風土。「お互い様」の環境づくりはどのように行えばいいのでしょうか。

 

「支援的な風土を作るためには思いやりがある人を増やすのが一番ですから、採用では人柄を相当厳しく見ています。あとは管理職の登用も大事です。個別の事情を抱えたメンバーをまとめながら、パフォーマンスを上げていくのがマネジャーの役割です。『全社思考ができない人、そして器が小さい人はマネジャーになるべきではない』というのはイントラネットにも明記しています」

 

ただし、「必ずしも手厚いことがいいわけじゃない」と久保田さん。

 

「エーピーコミュニケーションズの副社長・永江耕治さんがおっしゃっていた『ケアとフェアの両方に配慮する』ということを意識しています。例えば在宅勤務中に育児や介護をしているのであればお休みを取ってもらうなど、どうするのがフェアなのかは考える必要があると思います」

 

仕事と治療が両立できる環境3. いろいろな人がいること

 

仕事と治療を両立する上で、「自分以外にもさまざまな事情を抱えた人がいる」と思えることは、心理的負担を下げることにつながります。だからこそ「会社全体のダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の感度を上げることが、がんに罹患した社員を支援する上で重要」と言います。

 

「性的多様性のワークショップ、経営会議でアンコンシャスバイアスに焦点当てる、デンマーク本社のD&I責任者が来日した際にワークショップやってもらうなど、数を打っています。がんアライ宣言やアワードにも、会社全体のD&Iへの感度を上げる効果があると感じています。

 

「不妊治療中、介護中、MBA取得を希望など、さまざまな社員が考えられますが、一つ一つの事例に丁寧に対応することが大切だと思います。人事の仕事の一つは、ビジネスを成長させることですから、会社全体のエンゲージメントを上げながら、持続的に成長する企業を目指してやっていきたいと思っています」

 

最後に、デンマーク本社の壁に大きく描かれている「So you can be you(あなたらしく居続けられる)」という意味の言葉を紹介。

 

 

「がんアライ部のコンセプトにも通じる言葉だと思っています。社員から、『自分らしく働けている』『何かあっても寄り添ってもらえる』と言ってもらえるようになったらうれしいですね。道のりはまだ長いですが、助け合ってやっていきたいと思います」

 

>>【がんアライアワード2019 ゴールド】コロプラスト株式会社の「がんと就労」施策

>>【がんアライアワード2018 ゴールド】コロプラスト株式会社の「がんと就労」施策

 

【日立システムズ】「支援体制の確立」と「正しい知識の啓発」のために行った4つのアプローチ

 

日立システムズは、システム構築事業、システム運用・監視・保守事業、ネットワークサービス事業、情報関連機器・ソフトウェアの販売と開発を事業内容としています。従業員数は1万人規模、平均年齢は男女ともに40歳を越え、今後がんに罹患する従業員の割合も上がっていくことが予測されます。

 

日立システムズが、がんアライ部の活動に参加するようになったのは、2016年8月に人事・総務部門の従業員が乳がんに罹患したことがきっかけ。その際、同じ病気を体験した人に相談に乗ってもらったことで不安が解消された経験から、自分の経験を生かして、がんの早期発見・早期治療の大切さを伝えたいと、取り組みがスタートしました。

 

(株式会社 日立システムズ 人事総務本部 ダイバーシティ推進センタ 金森さつきさん)

 

がんに罹患しても、安心して働き続けられる制度やサポート体制があることを従業員に伝えることで、不安の解消や治療と仕事の両立支援につなげていくことをめざしたといいます。そのために、まずは支援体制の確立と、正しい知識の啓発から進めていくことに。

 

具体的には「支援体制」「制度周知」「意識啓発」「風土づくり」の4つのアプローチを行ってきました。

 

支援体制

「すでに取り組みを始めている会社の方から知恵を拝借し、まずは治療と仕事の両立支援体制を整えました。疾病を抱える従業員を職場の上司、産業医、保健師、人事総務スタッフが一体となって支え、そして主治医の先生とも連携を取りながら進めています。ただ、中にはまずは外部機関に相談したいという人もいますので、従業員支援プログラムという外部の機関も使えるようなメニューも設けています」

 

 

制度周知

「休職制度や時間単位での年次有給休暇、勤務形態もフレックスや時差出勤、在宅勤務など、すでにさまざまな制度が社内にはありました。治療の状況に応じてこれらの既存の制度を組み合わせて仕事と治療が両立できることを一覧表にまとめて周知しました。また、この表を見ながら上司や産業保健スタッフと会話することで、両立支援サポートがスムーズに進むよう、工夫しています」

 

 

意識啓発

「福利厚生のお得なプランなどのお知らせを社員の自宅宛に郵送するタイミングで、がん検診の補助金のメニューや健康に関するニュースも同封しています。また、2017年11月から『がんと就労を考える がん予防と早期発見』というテーマで、がん体験者によるセミナーを全国で開催しています。セミナー後は個別相談や保険相談、乳がんの触診モデルの体験などのメニューも用意しており、これまでに通算で600名以上の方に受講いただいています」

 

受講者からは、「がん検診を早速申し込んだ」「両立支援制度やサポート体制があって安心した」「病気になっても活躍している人がいることを知って心強く感じた」などの感想が寄せられているそう。

 

 

「2019年7月からは風土づくりも兼ねて、セミナー後の座談会も始めました。質疑応答では手が挙がらないことがほとんどでしたが、4人1組ぐらいで話す機会を設けたところ、『実は検診で引っかかって不安だった』『検診はどのくらいの頻度で受けたらいい?』など、さまざまな不安や疑問を抱えていらっしゃることがわかりました。対話することで理解も深まりますし、不安が解消されて、その場の心理的安全性が高まるように感じています」

 

風土づくり

「がんアライアワードで2年連続ゴールドをいただきましたので、ニュースリリースなどで社内外にメッセージを発信したところ、社外・社内の双方からさまざまな問い合わせをいただきました」

 

 

「広報部門と連携して情報発信をすることは従業員やその家族に思いを伝える手段として有効だと感じています。また、がんアライアワードの授賞式には人事総務管掌役員が出席し、トップメッセージという形でも仕事と治療の両立を応援していることを伝えています」

2019年9月には、多様性を受け入れ、誰もが自分らしく、ありのままで働ける心理的安全性の高い職場づくりの一環として「アライステッカー」を作成。ダイバーシティに関する社会的課題を自分ごととして捉え、その解決に向けて動く人をアライ(支援者)と位置づけ、配布を進めています。

 

また、毎月さまざまなテーマを掲げて職場内で討議をする「職場ミーティング」では、同年12月に初めて「治療と仕事の両立支援」がテーマになりました。

 

「事前共有資料を読んでいただき、感想や気付きを共有すると同時に、必要な時に相談しやすい職場づくりをするために何ができるかを話してもらいました。厚生労働省が『治療と仕事の両立支援ナビ』で『会長 島耕作』の漫画でメッセージを出しており、それを事前共有資料にしたことで親しみやすさも持っていただきながら、正しい知識を学ぶきっかけになったと思っています」

 

開催後は「がんになったら会社を辞めるものだと思っていたけど、働く選択肢もあることに気づいた」「両立支援制度を知らなかったので、知ることができて安心した」といった意見が多く寄せられたそう。

 

「2人に1人はがんになる今、がんを身近な問題として捉えていただけたのかなと思います。がんだけでなく、育児・介護・病気の治療なども同様で、お互い様の気持ちで職場全体がサポートし合えるような風土づくりや体制づくりが必要だということを、多くの従業員が自ら感じ、その思いを共有し合えたことは大きかったと思います。また、プライバシーへの配慮や、いざ相談を受けた時に必要な配慮がわからないといった声も目立ちましたので、今後の課題としてこれらのサポートについても取り組んでいきたいと考えています」

 

>>【がんアライアワード2019 ゴールド】株式会社日立システムズの「がんと就労」施策

>>【がんアライアワード2018 ゴールド】株式会社日立システムズの「がんと就労」施策

 

取材・文・撮影/天野夏海

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