「がんに罹患した従業員はいない」のに4年連続がんアライアワードに応募する理由/株式会社エグゼクティブ - がんアライ部
がんと就労の両立支援に取り組む企業には、どのような背景や想いがあるのでしょうか。具体的な施策とともに、そのストーリーをご紹介します。
営業アウトソーシング事業を行う、株式会社エグゼクティブは、2018年の第一回がんアライアワードから4年連続でシルバーを受賞。2021年には「がん治療と就労の両立支援ハンドブック」の作成にもご協力いただきました。
実は「がんに罹患した従業員はいない」という同社。これほど積極的にがんと就労の取り組みを行う理由を伺いました。
<プロフィール>
株式会社エグゼクティブ
田中淳子さん/セールスサポート部 プロジェクトリーダー
鈴木はるなさん/パブリックリレーション部 PRプロジェクト プロジェクトリーダー
>【がんアライアワード2021シルバー】株式会社エグゼクティブの「がんと就労」施策
>【がんアライアワード2020 シルバー】株式会社エグゼクティブの「がんと就労」施策
がんと就労の取り組みをしている意識は「あまりない」
——がんと就労の取り組みを始めたきっかけを教えてください。
田中:正直にいうと、がんと就労の取り組みをしている意識はあまりないんです。根底にあるのは、「働きにくい事情を抱えている人が、思うように働ける会社にしたい」という想い。
世の中を見渡すと、育児や介護、病気など、さまざまな理由から思うように働けない人がいます。たとえ働けても、待遇に差があったり責任ある仕事を任せてもらえなかったりするケースもあります。
でも、それではもったいない。そんな考え方が代表にあり、その状況を何とかしたいと思ったことが、働き方改善に注力するようになったきっかけでした。
——「どうにかしなければ」と思うような出来事があったのでしょうか?
田中:2013年ごろ、あるパートの方が入ったことがきっかけです。お子さんがいる方で働く時間に配慮が必要でしたが、非常に活躍してくださったので、「時間の制限があっても関係ないんだな」と実感できました。
田中:また、実は代表自身も積極的に子育てをしています。当時は男性が子育てをすることは今よりもずっと珍しかったのですが、「子育てが理由で仕事が思うようにできないのはもったいない」という想いがトップにも強くありました。
そういう背景から2017年にNLPT宣言(※)を出し、次のような制度をつくってきました。
※「Our company has No Limitations on the location of work Place and working Time.(働くのに場所も時間も関係なし)」の頭文字を取ったもの
・完全テレワーク制度
全国から勤務可能。オフィスへの出社義務なし。
・フリー正社員制度
週3日でも、時短でも正社員。給与/賞与水準、業務内容の別なし。
・D-Light制度
在職年数や勤務体型に依存せず、クライントの喜び値で給与が決定。
・SHIP
企業内スキルを超えて、理想的な未来を実現するためのトレーニング制度。
・プロジェクトリーダー制度
階層組織なし。いつでも誰でもプロジェクトリーダーに昇格。
・オープンワールド制度
成長したその後をサポートする制度(役員/独立/フリーランス)
鈴木:当社の従業員数は40名程度。この規模感だからこそ、フットワーク軽く、困っている人を助けることができます。「明日にでも環境を変えよう」という感覚があり、実際それができる規模でもあるので、ここ数年でさまざまな働き方や環境を変えてきました。
がんアライアワードに毎年エントリーする理由
——「がんに限らず」ということですが、なぜ「がんアライアワード」に応募してくださったのですか?
田中:偶然ご紹介いただいたことがきっかけでした。「がんであっても一緒に働けることは大事だよね」と思ったので応募したところ、想像していた以上に素晴らしい評価をいただいて。
私たちは立派な福利厚生を用意するというよりは、一人一人の従業員の声を手作業で、工夫しながらかたちにしてきました。そこを評価いただけたことで、「私たちがやっていることは間違いじゃなかったのかな」と思うことができましたね。
——うれしいです。初年度以来、エグゼクティブさんは毎年がんアライアワードにエントリーしてくださっていますよね。その理由は何でしょう?
田中:定期的に評価を受けられることもうれしいんです。毎年制度を見直す機会になりますし、自社を客観的に見ることもできる。
そして、「うちの会社はこういうところに力を入れているのか。それが評価されているんだな。」と、社員に取り組み内容や姿勢が伝わる効果があると感じています。鈴木が社内外で発信し続けてくれていることもあり、がんに限らず体調を崩した時に、「会社に相談できるかも」と思ってもらえるのではと思います。
鈴木:確かに、ちょっとずつ社内に浸透してきている感覚はあります。アワードの受賞は「やっていることをそのまま書いたら評価してもらえた」という感じで。
だからこそ、毎年取り組んでいることを評価してもらえることで、会社の理念やスローガンがどこか手の届かないところにあるのではなく、「本当に自分たちの所にあるんだな」と感じられる機会になっている気がします。
田中:あまり意識はしていませんでしたが、継続することによって会社が大切にしている方針が社内に伝わっているのかもしれないですね。
——4年連続でアワードにエントリーいただいていますが、継続の原動力はどこにあるのでしょう?
鈴木:人や状況が変われば、会社も変わっていきます。当社にも毎年少しずつ変化があって、その中でみんなが「どういう状況でもやりたい仕事で頑張れるように」頑張っている。それを発信したい気持ちはありますね。
田中:当社の大きな柱である「フリー正社員制度(週3日や時短、在宅勤務でも正社員として働ける制度)」や「プロジェクトリーダー制度(階層ではなく、いつでも誰でもプロジェクトリーダーになれる制度)」は確立していますから、大きな動きがない中で毎回エントリーしていいのかな?という気持ちも少しありました(笑)
——さまざまな企業の取り組みを世の中に広めていきたいと思っていますので、引き続きエントリーいただけるとうれしいです。
——ところで、先日は「がん治療と就労の両立支援ハンドブック」の作成にもご協力いただきましたよね。
田中:私たちはがんと就労の分野について、経験値があるわけではないですし、福利厚生の整った大手企業さんと比べれば、できることをできる範囲でやっているに過ぎません。
「がん治療と就労の両立支援ハンドブック」作成のワークショップでも、皆さんが立派な自社のハンドブックを持参される中、当社のものは紙一枚で……。「本当に参加していいのかな?」と恐縮ではありましたが、勉強する良いきっかけをいただきました。
今回のハンドブックに限らず、がんアライ部からいろいろなタイミングで勉強などお声がけをいただくことで、学びの機会を得られています。
——早速「がん治療と就労の両立支援ハンドブック」をご活用いただいたと聞きました。
田中:そうなんです。フォーマットを利用して作ったものを社内イントラに上げました。中身が充実しているから、社内制度のところをちょっと変えたくらいで、あとはほぼそのまま使えましたね。
今後改定しなければいけない場面は出てくるかもしれませんが、ハンドブックにはものすごく細かくポイントが書いてあるから、基本的な情報が簡単に社内に情報共有できるのは大きいなと思います。
「こういうことを考えなきゃいけないんだな」と社員がイメージができるのはもちろん、「こういう風に考えようとしている会社なんだ」というのも伝わるんじゃないかなと思っています。
「自分に何が起きるかわからない」から「お互いさま」と思える
——エグゼクティブさんはとても自然体だなと思います。一過性ではなく、当たり前のように働きやすい環境づくりを続けている。それができるのはなぜだと思いますか?
田中:二つあって、一つはトップ、代表の存在です。「働きやすい環境をつくっていこう」と常に言い続けていますし、代表自身も18時には退勤する。テレワーク導入以前は、お子さんを預けられない時は会社に連れてくることもありました。代表のそういう姿勢が良い手本になっているのはありますね。
鈴木:代表からは「誰かが困っていることを解決する」という想いを感じます。どういう状況になっても、絶望的になることはなさそうだと思えるし、「どういう状況でも働いていけるだろう」という感覚もあります。
そう思えるのは、代表はもちろん、社員みんなの柔軟性が高いことも影響していると思います。変化を受け入れる力が強いので、安心感がありますね。
——二つ目はいかがでしょう?
田中:社員全員が制度を活用していることです。時短で育児をしたり、ワーケーションしながら看護をしたりといったことだけではなく、フルタイムの人もフルタイムなりに制度を活用しながら仕事をしている。自分がコミットできる働き方をそれぞれが選んでいます。
だから「チームに助けてもらっている」感覚はみんなが持っていますし、だからこそ「誰かが困っていたら助けないと」という気持ちもあるのではと思います。「お互いさま」であり、強弱はあっても「チームとしてやらなきゃ」という感覚は共通している。そんな支え合いの風土がありますね。
——その風土はどのようにつくられたと思いますか?
田中:働き方を調整するには、周りのサポートが不可欠です。そこで、チームで仕事をすることで常に情報を共有し、誰かが急に帰らなければいけない場合もすぐにサポートできるよう体制を整えるなど、それなりの期間をかけて工夫をしてきました。その中で風土ができていったように思います。
やはり根性論では続かないじゃないですか。もちろん気持ちをキープするのも大事ですけど、制度として支える体制をつくる必要はあると思っています。
鈴木:いつ保育園からの呼び出しがあるかわからないし、隣の人が急に具合が悪くなるかもしれない。だからこそ、相手の仕事も、自分の仕事も、見える化することを意識していますね。
途中で仕事を抜けるときは、託す人に仕事を引き継ぐ責任を果たさなければいけない。最初の頃は失敗もありましたけど、今はみんなのそういう意識が風土として根付いたように感じます。
——前提として「自分に何が起きるかわからない」「急に休むことは誰しもある」という意識が皆さんにあるんですね。
田中:そうですね。「今日は保育園からの呼び出しで帰らせてもらうけど、あなたが風邪のときは応援します」といった、お互いに支え合おうという風土は醸成されているように思います。
大切なのは「今、困っています」が言えること
——これからがんと就労の取り組みをする会社に対して、何か伝えたいことはありますか?
田中:偉そうなことは言えませんが、社員には「自ら発信することが大事だよ」と伝えています。
というのも、私たちの基本的な考え方は「何かあったら工夫しよう」です。大きなことはできないし、100%希望通りにはならないかもしれないけれど、まず発信してもらわなければ何もできません。そのために3カ月に1回の代表との1on1をはじめ、声を上げやすい場面も意識的につくっています。
そして、完璧に整えるのではなく、社員と一緒にやりながら制度や仕組みをつくっていく。もちろんお金のことなど、きちんとしなければいけないこともありますけど、基本はそういう考え方でやってきました。
だからこそ、まず制度をつくろうとするのではなく、社員が発信しやすい風土をつくることが大事なのかなと思っています。
鈴木:本当に困っている人は、明日にでも解決してほしいんですよね。制度や仕組みが完璧になるまで待たせてしまうのではなく、やりながら調整しつつ、良いかたちに落とす。だから当社のほとんどの制度の起点には「誰かの困りごと」があります。
当社の場合、困っていることを伝えれば、働きたい気持ちを汲んで、今置かれている状況でも仕事が続けられるような体制をつくろうとしてくれる。その信頼関係があるから、「今、困っています」と安心して言えるのだと思います。
——フットワーク軽く動ける企業規模の強みを生かして、社員の悩みをキャッチする風土をつくりつつ、試行錯誤しながら困りごとを制度にしていく。そんなイメージなのですね。
——がんと就労に限らず「働きたいけど、働きにくい人が、安心して働ける」をかなえるために、今後やりたいことはありますか?
鈴木:最近代表がずっと言っているのは、「一人一人が輝く人生を歩んでほしい」ということです。
私たちはエグゼクティブの一員だけど、企業に属している自分ではなく、個人としての「私」の人生を輝くものにしてほしい。たとえ将来的に目指すところが当社ではなかったとしても、それによってあなたが輝けるのであれば、応援したい。そんなメッセージを代表が発信しています。
田中:それに伴い、代表との1on1で退職後の人生を設計することまでを含んだ教育制度「SHIP」という新しい取り組みをしています。
人生100年時代、現役生活で何をして、何歳で引退して、その後どう暮らすのか。とても大きいテーマですし、年代によって書けない人もいますが、全社員で取り組みながら「人生設計に対して、今何をやるのか」を考えています。
鈴木:「うちの会社だから」「子育て中だから」ではなく、もっと大きい枠組みで考える機会になっていると思います。理想的な将来像を実現するために、自分に必要なスキルを棚卸しすることで、自分を強くするというか。それぞれが「どこに行っても絶対大丈夫」と思える状態を目指して取り組んでいます。
そういう考え方を身につけることで、どういう状況であっても「自分がどうしたいか」を考え、決断することができるのかなと思います。
——貴社には働き方を選べる制度がありますが、「自分がどうしたいか」がわかるから働き方が選べるし、困ったときに声を上げることもできる。全てつながっているのを感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
取材・文・撮影/天野夏海