活動レポート

【中小企業向け】社員が「がんに罹患」した場合の基本の対応/社労士・近藤明美先生 - がんアライ部

【中小企業向け】社員が「がんに罹患」した場合の基本の対応/社労士・近藤明美先生 - がんアライ部

もしも従業員から「がんに罹患した」と報告を受けたら、どのように対応したらいいのでしょうか。

 

特に中小企業の場合、大手企業とは異なり制度や体制が整っていないことも多く、また人事担当者に求められる役割が多岐にわたることもあり、突然の事態に戸惑ってしまうこともあると思います。

 

そこで、厚生労働省の「治療と仕事の両立支援のための事業場における環境整備マニュアル(仮称)」の検討会にも参加している、社労士の近藤明美先生にインタビュー。「治療と仕事の両立支援ナビ」を基に、基本の対応と流れを解説いただきました。

 

<プロフィール>

近藤社会保険労務士事務所

近藤明美先生

近藤社会保険労務士事務所所長、特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、一般社団法人CSRプロジェクト理事。埼玉県越谷市を拠点に様々な企業の人事労務管理支援を手掛けるとともに、2009年よりがん患者の就労支援に取り組んでいる。東京、埼玉の医療機関や日本対がん協会等で就労相談を担当。埼玉県地域両立支援推進チームメンバーや埼玉産業保健総合支援センター両立支援促進員としても活動。著書に「がん治療と就労の両立支援 制度設計・運用・対応の実務(日本法令)」等がある。

「仕事とがん治療の両立支援」の全体の流れ&基本のスタンス

 

——従業員から「がんに罹患した」と報告を受けたとき、人事担当者にはどのような業務や対応が発生しますか?まずは、全体の流れを教えてください。

 

両立支援の進め方は、大きく以下の流れとなります。

 

  1. 従業員から事業者に「がんに罹患した」という申し出がある
  2. 両立支援のための情報のやりとりを行う
  3. 職場での両立支援を検討・実施する

 

これをもう少し詳しく、登場人物別に両立支援の流れを示したのが、「治療と仕事の両立支援ナビ」の以下の図です。

 

▲厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ 治療と仕事の両立支援の流れ」より

 

——最初に従業員から「がんに罹患した」と申し出を受けたときの注意点を教えてください。

 

大前提として、「本人にすぐに退職を決断させないこと」を意識してください。会社としてバックアップすることを明確に伝え、本人の希望を会社のルールに基づき、可能な範囲で尊重する姿勢が重要です。

 

——突然のがん罹患に驚いて会社を辞めてしまう、いわゆる「びっくり退職」を防ぐわけですね。

 

もう一つ大事なのが、情報共有の範囲のすり合わせをしておくこと。病気のことがどう取り扱われるのかがわからない状態は、本人にとって不安なものです。

 

少人数の企業ほど曖昧になりがちですので、病気に関する情報は個人情報保護法に基づき、きちんと本人の同意を取って情報を収集し、目的の範囲内で使うことを伝えておくと安心です。

 

「主治医の意見書」を基に、今後の対応を決める

 

——「がんに罹患した」と申し出を受けたら、具体的には何をすればいいでしょうか?

 

まずは、主治医からの「意見書」をもらってください。本人がまだ受け取っていない場合は、医師からもらうよう伝えましょう。

 

一般的に病気やメンタルの疾患、あるいは妊娠など、どの場合でも「どういう状況なのか」を最初に確認しますよね。特にメンタル疾患の対応経験がある方であれば、診断書を提出してもらったと思います。それはがんであっても同じなので、あまり身構えすぎないでください。

 

主治医の意見書で「仕事にどのような影響があるのか」を確認し、本人の希望も加味しながら「仕事をしながら治療する」か、「休職する」か、今後の対応を決めていきます。

 

——まずは本人の状況を確認するのですね。

 

その際、主治医が意見書を書く前に、「仕事に関する情報の提供」を主治医に対して行うのが理想的な対応です。実は医療従事者側は、意見書の書き方に迷うことが少なくありません。患者さんがどのような仕事をしているのか、わからない限りは書けないという先生もいらっしゃいます。

 

「仕事に関する情報の提供」を踏まえて、主治医から意見書を書いてもらえると、会社側も今後の対応がより判断しやすくなると思います。

 

——「仕事に関する情報の提供」はどのように伝えればいいのでしょう?

 

「治療と仕事の両立支援ナビ」の「お役立ちコンテンツ」内にある「ダウンロード」に様式があります。「様式例」の「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」からダウンロードできますので、会社側で作成し、本人から病院に提出してもらってください。

 

なお、様式をベースにして、中身を作り変えても問題はありません。自社の勤務実態が具体的に伝わるように、臨機応変に対応してください。

 

▲厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ お役立ちコンテンツ内ダウンロード」より

 

これは余談ですが、病院側が両立支援を行うと、病院には診療報酬が支払われるようになりました。「会社から勤務情報を提供し、病院が意見書を出す」やり取りが診療報酬の対象となることもあり、最近では病院側から様式を渡されるケースも増えてきていますね。

 

休職する場合のポイント&注意点

 

——意見書の内容によって「働きながら治療する」「休職する」に分岐しますよね。まずは休職の場合、どのような対応が発生しますか?

 

休職期間は治療内容によって異なります。入院期間のみなのか、抗がん剤や放射線などの治療期間にまで及ぶのか、まずはどの程度の休職期間になるのか確認をします。

 

その上で、休むにあたって活用できる制度を確認しましょう。最近では病気休暇や積み立て有給制度がある中小企業も増えていますね。

 

もし制度がない場合は「どのように配慮をするのか」がポイントになります。基本的には「有給休暇の取得」「休職」「それ以外の方法」になると思いますが、100人程度の規模の企業の場合、「就業規則でどのように休職制度が定められているか」にはかなり差がある印象です。

 

——どういうことでしょう?

 

例えば「休職期間は3カ月」と就業規則で定めている場合、会社によっては延長規定が就業規則で定められておらず、休職期間の延長ができないことがあります。実際、休職期間の延長ができずに期間満了の退職になった例もあります。

 

現状の就業規則では休職期間延長ができない企業は、「会社の判断によっては延長することもある」といった文言を追加しておくなど、少なくとも延長できる可能性を残した内容に改訂しておくと柔軟な対応がしやすくなります。

 

両立支援は「企業のルールに基づき、可能な範囲で」が原則ですが、可能な範囲を広げる努力をぜひしていただきたいです。

 

なお、実際に休職期間の延長を検討する際に重要なのが、主治医の意見書です。「治療がどのくらいで終わるのか」「医療的見地から、治療後にフルタイムに戻れる見込みがあるのか」など、意見書を基に延長の判断をしましょう。

 

——休職中、企業から連絡を取るべきタイミングはありますか?

 

給与や社会保険、傷病手当金の申請、社会保険料の振り込みなど、月1回程度は何かしら連絡事項が発生すると思います。そのタイミングで状況を確認できるといいですね。

 

「休職期間中は月1回、会社に状況の報告をする」といった内容を就労規則で定めている企業もありますので、事前に確認しておきましょう。

 

また、急にお休みに入って引き継ぎが十分にできないケースもあると思います。その場合は事前に業務について連絡をする可能性があることを本人に伝えておくと安心です。

 

——「働きながら治療する」場合の注意点についても教えてください。

 

休憩をこまめに取る、外出を控えるなど、本人の体調に応じた働き方ができるよう、配慮が必要です。

 

その際、治療をしながら働くことになるので、日々の体調の変化に気を配っていただければと思います。「また体調が悪いと言っていると思われてしまうかも」と本人が気後れしてしまうこともあるので、無理をさせないためにも、企業側からこまめな声がけを行いましょう。

 

復職時のポイント&注意点

 

——復職にあたって、まずは何をしたらいいですか?

 

まずは主治医の意見書をもらい、「どういう状態であれば復職可能なのか」を確認します。その上で、本人の意向と職場の状況を踏まえた調整を行います。

 

「治療と仕事の両立支援ナビ」の「お役立ちコンテンツ」内の「ダウンロード」にある「職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例」では「復職可」「条件付き可」「現時点で不可」を、主治医の意見書としてもらえるようになっていますので、こういった様式もぜひ活用してください。

 

▲厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ お役立ちコンテンツ内ダウンロード」より

 

その際、条件付きでの復職の場合は、「残業は控えた方がいい」「出張は不可」など、医師に配慮すべき事項を書いてもらうことになります。

 

ここで難しいのが、リモートワークです。最近はコロナ禍でリモートワークが進んだこともあり、「リモートワークなら可能」と書く先生が増えていますが、企業や職種によっては出社が前提となることもありますよね。

 

その場合、会社としては復職不可になってしまい、主治医と企業の意見が合わず、復職に結びつかないこともあります。

 

——主治医と企業の意見が合わない場合にできることはありますか?

 

意見がずれてしまう背景には、本人の働き方を医師が理解しきれていないことがあります。

 

その場合は、最終的な判断をくだす前にもう一度コミュニケーションを取った方がいいと思います。本人に「テレワークで働くのは難しい」と伝え、改めて主治医と話をしてもらう。その上で、医師からの意見をふまえて、休職期間を伸ばすのか、配置転換をするのか、判断しましょう。

 

——復職が決まったら何をしたらいいでしょう?

 

具体的な配慮事項やスケジュールなどをまとめた職場復帰プランを作成するといいですね。「治療と仕事の両立支援ナビ」の「お役立ちコンテンツ」内にある「ダウンロード」に「両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例」がありますので、こちらを参考にしてください。

 

▲厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ お役立ちコンテンツ内ダウンロード」より

 

作成にあたってのポイントは、本人を含めた関係者で作成すること。人事担当者だけでなく、産業保健スタッフや上司、必要であれば主治医とも連携しましょう。

 

そして復帰後は定期面談を行いながら、治療の状況や本人の体調によって内容を随時見直してください。

 

 

まとめ

 

——仕事とがん治療の両立支援の第一歩として、中小企業が最低限やっておいた方がいいことを教えてください。

 

まずは知ることが大切です。「治療と仕事の両立支援ナビ」には各種資料がそろっていますので、そこから全体像をつかんでいただけると、対応のイメージがしやすいと思います。

 

その上で、環境整備ですね。ガイドラインに基づく「治療と仕事の両立支援のための事業場における環境整備マニュアル(仮称)」の一部が公開されています。ゼロから始める企業に向けて作っていますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

他に、他社とつながり、事例を知る意味では、がんアライ部の活動に参加するのもいいと思います。

 

——最後に、これから両立支援を行おうとしている中小企業に対して、メッセージをお願いします。

 

企業が長く存続するために必要なのは、従業員に「働きたい」と思ってもらえることだと思います。そのためには、どれだけ人を大切できるかが重要です。

 

そういう意味では、両立支援は全てのきっかけになる取り組みです。特に中小企業にとっては、両立支援に取り組むことが働き方改革や会社の強さにつながり、さらには会社の持続性につながっていくのだと思います。

 

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取材・文/天野夏海

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