「がんアライ部」発起人よりごあいさつ - がんアライ部
がんを経験された方がイキイキと働ける環境を目指す民間プロジェクト『がんアライ部』は、7人の発起人によって発足しました。10月6日の発足イベントにて、それぞれが抱く「がんと就労」に対する問題意識やプロジェクトに対する思いについてお話しました。当日出席した発起人からのコメントをお送りします。
各発起人のプロフィールはこちら
ARUN合同会社 代表 功能聡子
夫の山岡鉄也は、2010年に肺がんのステージ4と診断されました。すでに転移があって厳しい状況でしたが、主治医や職場の理解に恵まれ、今年7月に亡くなるまでの7年間、闘病と仕事を続けていくことができました。
そんな夫がライフワークとして取り組んでいたのが、「がんと共に働く社会の実現」です。
国立がん研究センターと共同で、「がんとともに働く 知る・伝える・動き出す」というプロジェクトを推進してきました。
日本では86万人を超える人が、毎年がんを新しく罹患するといわれていて、その中の約3割、約25万6000人が就労可能な年齢でがんに罹患しています。がんの5年生存率は上がってきていて、全ての種類のがんを合わせて調査すると、約62%が5年以上生きている。つまり、がんは「死に至る病気」から「長く付き合う病気」になってきたと言われています。さらに国も自治体も、がん治療と就労の両立に対し、企業の努力を促す取り組みを行っています。
ところが、「がんは稀な病気で、がんになったら離職しなければいけない」と考えている方が、社会的にも患者さん自身にも、まだまだ多いのが現状です。特に患者さんにとって、最初にがんの診断を受けた時のショックは大きいもの。ただでさえ混乱している中で、治療と仕事の両立というのはなかなか考えられません。こうした状況を、このプロジェクトを通じて変えていきたいと考えています。
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長 岩瀬大輔
がん保険商品を作るにあたり、がんを経験された方にアンケート調査をしたところ、4割の方が「会社のサポート制度がない」状態にあり、3割の方が「制度はあるけど利用できない雰囲気だった」ことがわかりました。
こうした現状を踏まえ、治療する方にとって働きやすい環境作りを考える勉強会や、企業の人事担当者や職場の同僚など、受け入れる側全体の知識の底上げができるような活動が必要ではないかと考えたことが、『がんアライ部』発足のきっかけです。
企業が主体となって動くことで社会に変革を起こせることを、2015年のLGBTの活動を通じて実感しました。ライフネット生命がいち早く「同性のパートナーを死亡保険金の受取人に指定」できるように対応すると、同業他社さんも追随して取り組むといったように、企業の横並び効果で好循環に波及していく。そうするうちに、「LGBTの問題に対応しないとかっこ悪い」という空気が少しずつ醸成されていきました。
すでに「がんと就労」というテーマでいろいろな活動がありますが、「企業」という軸で活動することで、医療従事者の皆さんや政府関係者、当事者の皆さんそれぞれに対して、接着剤のような役割ができればと思っています。
認定NPO法人フローレンス 代表 駒崎弘樹
当社にもがんを治療しながら働いている職員がいるというのが、この問題を考えるきっかけをくれました。彼が申し訳ない思いをすることなく、普通に働けないからと評価を下げられずに、イキイキと可能性を追求できる環境を作る。子育てしながら働くのも、介護しながら働くのも、治療しながら働くのも、全部一緒だということに気付きました。
国がいくら制度や法律を作ったとしても、企業の行動や人々のマインドを変えるのは容易ではありません。制度とともに風土を変えねばならず、そのためには社会運動が必要です。
私は厚労省のイクメンプロジェクトの中で、イクメンという言葉を作り、その言葉を広げながら、イクメンを増やすという社会運動を官民で行ってきました。これまでの知見を生かし、「がん治療と働くことの両方を同時にやっていこう」という世の中に、少しずつ変えていけるのではないかと思っています。
キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表 桜井なおみ
私が代表を務めるキャンサー・ソリューションズは、がんの患者さんが働いている会社です。スタッフの看取りをしなくてはいけない場面も出てきますが、最後まで働いていただいています。社会に参加し、役割を持つということが、生きる上で欠かせないものだと思っているからです。
また、私自身が2004年にがんを経験して、その後働くことにとても悩みました。がんと普通に言える社会、そしてそこから広がって、他の難病の方や困りごとを抱えている人たちみんなが参加できる社会に、この活動がきっかけとなって動いていけたらいいなと思っております。平成24年のがん対策推進基本計画の中に「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」というテーマが出ていましたが、もっと企業や社会を変えていかないと、隅々までは届きません。企業を中心とした人たちからムーブメントを起こすことができればと願っています。
カルビー株式会社
執行役員人事総務本部長 武田雅子
私は2004年に乳がんを経験しました。治療をしながら仕事をするということも経験し、現在会社では、“働くがんサバイバー”として、営業の事業部長と並行して、
社員のキャリア開発の仕事をしています。
私ががんを患ってからの13年で、医療の現場やウェブサイトの情報など、だいぶ整備がされてきたと体感しています。でも、「あとちょっとだけ手を伸ばせば情報があるのに」「もう少しで患者さんにリーチできるのに」と思うことはまだまだ多く、あとひと押しで社会が変わっていくところまできているのを感じています。
制度が社内にあっても利用できない雰囲気があるという人が、まだ3割もいる。でも一方では、働き方を改革したい、社員全員を活躍させたいと思っている経営者や人事の方たちがたくさんいらっしゃいます。こういうところに動きを作っていけたらいいなと、心から思っています。
一般社団法人キャンサーペアレンツ 代表
エン・ジャパン株式会社 人材戦略室所属 西口洋平
私はステージ4のがんの患者として、現在治療をしながら生きています。私には小学校3年生の娘がいるのですが、同じように小さい子供を持ちながら闘病する、もしくは若くして闘病する人たちに向けた、治療以外の情報を得やすい環境を得るためのコミュニティサービス、「キャンサーペアレンツ〜こどもをもつがん患者でつながろう〜」という活動をしています。その中でも、がんと仕事というのは大きなテーマです。
がんになる前は、がんのことも、治療しながら働くという問題も、全く知りませんでした。だからこそ「それでは全然患者にヒットしませんよ」といったように、当事者感覚を持って参加をすることで、がん患者ではない皆さんと一緒に共存できたらいいなと思っています。上からではなく、できるだけ皆さんと一緒に作っていく空気ができるように、私自身が元気に長生きすることを前提に、この活動に取り組んでまいります。