がんアライアワード2023受賞企業・ 名古屋銀行&ニチレイの人事が登壇! 治療と仕事の両立支援に取り組んだ今、思うこと - がんアライ部
2023年12月12日、「がんアライアワード2023」表彰式をオンラインにて行いました。
表彰式では受賞企業45社を代表して、ゴールドを受賞した名古屋銀行とシルバーを受賞したニチレイがパネルディスカッションに登壇。モデレータはがんアライ部発起人・メンバーズ 専務執行役員CHROの武田雅子が務めました。
本記事ではその内容を一部ご紹介します。
<登壇者プロフィール>
株式会社名古屋銀行 人材開発部人事グループ係長・貝瀬 繭子さん
>>【がんアライアワード2023ゴールド】株式会社名古屋銀行の「がんと就労」施策
株式会社ニチレイ 人事部ニチレイ健康推進センター 保健師・小山田早希さん
>>【がんアライアワード2023シルバー】ニチレイグループの「がんと就労」施策
がんアライ部発起人/株式会社メンバーズ 専務執行役員CHRO・武田雅子
がんと仕事の両立支援を始めたきっかけ
武田:今回の受賞、おめでとうございます。まずはそれぞれの企業規模と、がんと就労の両立支援の取り組みを始めたきっかけについて、簡単にご紹介いただけますか?
貝瀬:名古屋銀行は約2000名の従業員を抱える企業です。2022年6月より健康経営推進室が発足し、本格的に従業員の健康に関する取り組みを始めました。
それ以来、人事部門と保健師の連携が強化されたのですが、がんに罹患する従業員の多さに人事部門としてとても驚いています。
武田:健康経営推進室の発足背景について教えてください。
貝瀬: 2022年10月に人事制度改定を実施したのですが、より働きがいのある組織に変化していくために、人事制度改定の骨子に入れたことがきっかけです。
人事制度改定に先立ち、人材開発部、診療所、健康保険組合、法人営業部、経営企画部の5つの部門が連携し、組織横断型の組織として健康経営推進室を立ち上げました。
現在は約10名のメンバーが所属しており、部門をまたがった4つのグループが各部門の意見を踏まえながら健康経営を推進するための各施策を推進しています。
武田:最初から部門横断で立ち上げたのは大きなポイントですね。続いてニチレイさん、お願いします。
小山田:ニチレイはグループ全体で約1万6000人(うち国内従業員約8600人に向け健康支援を実施)の従業員がおり、全国にさまざまな事業所があります。
2015年に健康推進グループを発足し、「事後措置の徹底」を行い、2018年にはニチレイグループ全体の健康経営推進のためにニチレイ健康推進センターへ改組しました。
2019年頃から働き方改革の一環として人事部が主体となり、介護や育児、また治療などさまざまな事情を抱える従業員の両立支援に取り組んでいます。その中でも治療と就労の両立支援については、健康推進センターで取り組みを行っています。
武田:従業員の皆さんに対して、どのような体制で働きかけをしているのですか?
小山田:健康推進センターには保健師6名とスタッフ6名の12名が所属しています。他に、全国の各エリアに4名の保健師が配置されており、現時点で10名の保健師が従業員の健康推進のために活動しています。
「相談がくるのを待つ」ではなく、保健師が各事業所を訪問
武田:実際に取り組みを進める上で、大事にしていることがあればお聞きしたいです。
貝瀬:名古屋銀行は愛知県内に100店舗近くあり、2000人の従業員が各支店に点在しています。これまでは従業員が健康に関する困りごとを抱えていても、誰に相談したらいいかわからないことが一つの課題でした。
そこで2022年度より本部に駐在している保健師が直接各支店を回ることで、全従業員と面談できるようにしています。2023年には保健師を2名増員しました。
武田:相談に来るのを待つのではなく、保健師が自ら支店に出向くのですね。
貝瀬:そうやって各支店を回りながら、健康に関する悩みを抱えている人たちを産業医につなぐ仕組みづくりをこの1年で行ってきました。
同時に、この1年は広報活動の期間でもありましたね。保健師が各支店を回ることで、「こういう相談窓口があったのか」「こういう制度が整っていたんだ」など、従業員に健康経営に関する取り組みを知ってもらう機会にもなったと感じています。
また、相談先が明確になったことで「実はこういう従業員がいて……」といった部下の健康に関する相談が上長から保健師にされるようにもなりました。
武田:忙しい中わざわざ本店に行くのは大変だけれど、店舗まで来てくれれば気軽に相談ができますよね。歩み寄りがすごいなと思いました。
ニチレイさんも事業所が複数ありますよね。
小山田:そうですね。当社では2020年度から保健師が各事業所への訪問を始め、主に健康診断結果に基づいた面談を行っています。
面談を面倒に感じていた方でも対面で気軽に相談ができるようになったことで、「実はがんに罹患した経験がある」という声が寄せられたり、健康診断後の再検査につながったりしています。「あの従業員の話を聞いてあげてほしい」といった、上司や同僚からの声かけが生まれるケースもあり、現場を訪問することの意義は我々も強く感じています。
コロナ禍でオンラインセミナーが盛んに
武田:会場から「コロナ禍で変化はありましたか?」と質問がきています。まず、ニチレイさんはいかがでしょう?
小山田:2016年から「ニチレイ健康塾」という健康に関連したセミナーやイベントを実施しています。当初は対面での開催でしたが、コロナ禍でオンラインがメインとなり、現在は毎月複数回オンライン、対面を交えて開催しています。
両立支援に関するテーマのセミナーも年3〜4回開催しています。当初は罹患者をメインターゲットと考え、体験談を語ってもらう講演を行っていましたが、参加者を募る中で「予防について考えたい」「家族が病気になった」といった話も少しずつ耳に入るようになり、現在では大切な人を守るためにどうするかという視点を含め、より幅広い人を対象に開催するようになりました。
最初は参加者を数十人集めるのにも苦労しましたが、最近では100人規模に近づいてきていますね。
武田:事例集を拝見していても、セミナーアンケートから課題を拾って次のセミナーにつなげる循環が回っているのがとてもいいなと思いました。
名古屋銀行さんはいかがですか?
貝瀬:銀行はコロナ禍でも営業を行っていたので、在宅勤務が増えたといった変化はありませんでした。ただ、ニチレイさん同様、オンラインでセミナーを受講する文化が広まったのは大きな変化です。
従来のリアル開催では支店から全員を集めるのは非現実的でしたが、オンラインセミナーになったことで受講率が高まっています。全従業員の80%が受講するセミナーもいくつか出てきていますね。
武田:素晴らしいですね。受講率を上げる工夫はありますか?
貝瀬:健康の大切さを従業員に訴えて定期的に広報活動を行ったり、現場の所属長から声もがけをしてもらったりと、地道にコツコツ取り組んでいます。
両立支援、健康経営を推進する苦労
武田:続いて、大変だったことについて教えてください。両立支援を進めるにあたり、さまざまな困難や苦労があったかと思いますが、いかがでしょうか。
小山田:ニチレイグループは全国に事業所があり、工場や倉庫では夜勤勤務もあるなど、従業員の働き方はさまざまです。
工場勤務者の中にはメールアドレスを持っていない人もいますし、工場内への電子機器の持ち込みが制限されることもあり、インターネットを介した情報提供が難しいケースがあります。そのような人たちに「健康塾」の案内を含め、各種情報をどのように届けるかは課題です。
現状は現場の皆さんにご協力いただき、大事な情報はポスターで掲示するように心がけていますが、まだまだ「健康塾」参加者を募れていないのを感じています。
武田:工場の勤務の方たちがインターネットの情報にアクセスする手段はあるんですか?
小山田:例えば健康診断の受診報告をしてもらっているのですが、それはQRコードを個人のスマートフォンで読み取って回答できるように仕組みを整えています。
セキュリティ面の課題をどうクリアするか次第ですが、今後は個人のスマートフォンから必要な情報にアクセスできるようにするなど、何かしらの方法を検討中です。
同時に、現地の安全衛生委員会や集会などでお話する機会をいただいたり、健康塾のセミナーや体力測定イベントを工場で開催したりもしています。
武田:来年のアワードに向けて書くことがすでにたくさんありそうですね。名古屋銀行さんはいかがでしょう?
貝瀬:年齢層によって健康への意識が異なることに難しさを感じています。
年齢が高い従業員は「健康は個人の問題」という認識が強く、会社がやる施策に対してどうしてもやらされている感が出てしまう傾向にあります。
反対に、若手は「自分には関係ない」「まだ必要ない」など、そもそも健康への意識が低い傾向にあり、健康診断の受診率をどう伸ばすかが課題です。特に若い女性の乳がんや子宮がんの検査率が低いのは大きな課題だと思っています。
「受診してください」と呼びかけるだけではなかなか動いてくれませんので、実際にがんに罹患した従業員の体験談を伝えるなど、決して人ごとではないことを合わせて伝える必要があると思っています。
武田:社内を巻き込む時は、やはりデータで話すことが重要ですね。健康に関する施策は正しいものであり、言えばやってくれるだろうと思ってしまいがちですが、数字などの根拠で武装するスキルも必要だと感じます。
両立支援の取り組みがもたらした効果
武田:実際に取り組みがもたらした効果について教えてください。
小山田:2023年5月からポータルサイトに「みんなのつぶやき部屋」を開設しました。
以前はがんにり患された従業員を集めて座談会形式でお話を伺っていましたが、参加者を集めるのに苦労したことから、まず安心して話せる社内風土をつくる必要があると感じました。
また、働く場所も職種も全く違う人たちがオンラインでつながって自身の病気について話すメリットは感じにくいかもしれないとも思いましたので、まずは無記名でもいいから皆さんの想いを聞くためにどうするか、考える中でこういう取り組みを始めました。
「みんなのつぶやき部屋」には、現在十数件の投稿が寄せられています。「家族の罹患がわかってつらい」といった想いの吐露や、「どうやって休みを取ればいいですか?」といった具体的な相談、「がん検診を健康診断に入れた方がいいのではないか」というがん経験者からの意見など、さまざまな声が届いています。
それらに対して、直接ご連絡をすることもありますし、無記名の方についても「治療と仕事の両立通信」を年に数回発行していますので、そちらで投稿を紹介しながら返答をするなど、いただいた貴重な意見を無駄にしないよう、何かしらコミュニケーションを取れるよう意識しています。
武田:セミナーで人が集まらない場合、どうやって集めるかに目が行きがちですが、「無記名のつぶやきでもいいから声を集めよう」と全く違う角度から考えられる柔軟性が素晴らしいと思います。
集まった意見に対してアクションをすれば当事者も発信しようと思いますし、一人一人の気持ちに寄り添って施策を考え、運用していることが伝わってきました。
名古屋銀行さんはいかがですか?
貝瀬:従業員のうち約450人がパート社員であり、中にはメンバーの半数近くがパート社員という支店もあります。
今までパート社員はがん検診の対象外でしたが、2022年から対象に加わったことで、がんの早期発見につながっています。実際にがん治療をしながら働いているパート社員も数人いますね。
また、これまでの就業制度は病気が治ることを前提としたものであり、治療を継続しながら勤務する制度がなかったので、2023年には半日から勤務できる疾病短時間勤務制度を作りました。
武田:制度が使える期間はどれくらいですか?
貝瀬:原則1年としていますが、治療がどのくらい続くかは未知数なこともありますので、それぞれの事情に応じて対応していきたいと思っています。
なお、疾病短時間勤務制度を作るきっかけとなった従業員は残念ながら制度運用開始前に亡くなってしまいましたが、最後の最後まで働きたいとおっしゃってくださっていた従業員と「今こういう制度を整えているからね」とお互いに励ましながら制度を整えてきました。我々も背中を押されましたし、亡くなった従業員にとっても一つの安心材料になったのではと思っています。
武田:素晴らしいですね。両立できる環境があることを示す何よりのエピソードだと思います。
最後に、今後どのようなことに取り組んでいきたいか、教えてください。
小山田:罹患者のコミュニティ構築のほか、ピアサポートやがんに関するセミナー登壇などを検討しています。がん経験者の方同士はもちろん、さまざまな従業員が支え合って働いていける会社を目指したいです。
貝瀬:最終目標のコミュニティ作りに向けて、その土台を作っていきたいと思います。例えば、がんと戦ってきた方や、ご家族ががんを経験された方の体験談などを集め、従業員に展開するなど考えています。
>>「がんアライアワード2023」受賞企業と事例集を発表いたします
文/天野夏海