がんアライアワード2024ゴールド受賞・オカムラ&日立システムズエンジニアリングサービスの人事が語る、両立支援の取り組み - がんアライ部

2024年12月12日、「がんアライアワード2024」表彰式をオンラインにて行いました。
表彰式では受賞企業48社を代表して、ゴールドを受賞したオカムラと日立システムズエンジニアリングサービスがパネルディスカッションに登壇。モデレータはがんアライ部発起人の武田雅子が務めました。
本記事ではその内容を一部ご紹介します。
<登壇者プロフィール>
株式会社オカムラ 人事部 橋立菜々子さん
>>オカムラの「がんと就労」施策はこちら
株式会社日立システムズエンジニアリングサービス サステナビリティ・リスクマネジメント本部 本部長 岩田正幸さん
>>日立システムズエンジニアリングサービスの「がんと就労」施策はこちら
がんアライ部発起人・武田雅子
オカムラのがんと仕事の両立支援の取り組み内容
武田:この度はゴールド受賞、おめでとうございます。2024年度、がんと仕事の両立支援についてどのような取り組みをしてきたのでしょうか?ぜひ各社の特徴的な取り組みについてご紹介いただければと思います。
橋立:オカムラでは女性特有のがんに関する取り組みとして、2023年からHPVセルフチェックキットを導入しました。対象者は子宮頸がん検診を受けていない方で、主に検診に抵抗がある方に向けて提供しています。
HPVセルフチェックキットの社内広報を毎年進めながら、社内への浸透を進めている状況です。受信率は徐々に上がってきていますね。
武田:がん情報サービスによると平均受診率は乳がん検診が47.4%、子宮頚がん検診は43.6%。(参照)
一方、オカムラさんは乳がん検診が59%、子宮頸がん検診は62%と、婦人科検診の受診率が非常に高いですよね。素晴らしいと思います。
橋立:あとは、生活習慣病対策としてオーラルケアを進めています。具体的にはライオン社に協力いただき、生産部門である工場で歯磨きの方法を伝えたり、唾液検査で口内の健康状況を検査したりしています。
工場勤務者は喫煙率が高いので、歯磨きやオーラルケアを通じて生活習慣病を予防する意識を高め、自分ごととして考えてもらうきっかけになればと思います。
武田:歯磨き指導と歯ブラシの配布で終わってしまうケースも多いですが、オカムラさんの場合は昼食後の歯磨き率や歯科検診の受診率など、数字を取ってやりっぱなしにしないのがいいなと思います。
日立システムズエンジニアリングサービスの取り組み内容
武田:日立システムズエンジニアリングサービスさんはいかがでしょう?
岩田:5年前にがんアライ部の活動に賛同した頃、当社ではがんを含む疾病で年1〜2人の現役従業員が亡くなっていました。この現状を危惧し、フィジカルとメンタルの双方の面からデータを取ろうと始まったのが、プレゼンティ―イズム調査です。2023年度から月1回、睡眠の質や疲労度など、さまざまな指標で健康状態について回答してもらっています。
プレゼンティ―イズム調査によって全体像のデータは取れるようになりましたが、もっとリアルタイムに健康状況をチェックしていきたいと考え、現在は毎日のコンディションチェックも行っています。「一番良い状態が10点として、今は何点ですか?」といった質問項目で、数字で簡単に回答できるようになっています。
2024年の秋から始めたばかりで、まとまったデータはまだ取れていませんが、数字が低い人に対して産業医や保健師、労務部門のスタッフなどが面談をしたり、上司にデータを共有したりといった対策を始めたところです。
武田:回答率はどのくらいですか?
岩田:80%程度です。始めた頃はもう少し低かったですが、だんだん上がってきています。
武田:データ取得後、PDCAを回したり各種部門と連携したりするのは大変そうです。どのような取り組みをしているのでしょうか?
岩田:月1回行う部長クラスが集まる会議で、人事部門から健康経営の状況について説明しています。プレゼンティ―イズム調査の結果を含めた数字を共有し、状況を理解してもらった上で、各部門で打てる対策を行ってもらうよう声かけをしています。
当社の健康経営推進の根幹には、日立グループ共通の考え方である「SQDC」があります。セーフティー(安全と健康)、クオリティ(品質)、デッドライン(納期)、コスト(費用)の頭文字をとった言葉であり、特に重視しているのがS(安全と健康)です。
これは「お客さまに良いサービスを提供するには、従業員が健康に働けていることが大前提である」という考え。だからこそ、マネジメントラインがまずやるべきは部下の安全と健康を守ることであり、それができないならマネジメントをしてはいけないという考え方が当社にはあります。
武田:日立システムズエンジニアリングサービスさんにはCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)がいて、各事業部にも健康経営の推進責任者がいるのですよね。
岩田:そうですね。各事業部の健康推進責任者を「健康隊長」と社内では呼んでいます。当社の仕組みとして、マネジメントライン以外にコンプライアンス、情報セキュリティ、品質管理など、特化した役割を持った責任者がいます。その一つとして健康推進責任者がいるイメージですね。
施策に対して手応えを感じる瞬間
武田:社員の皆さんからの反応や組織に起きた変化など、施策を進める中で手応えを感じた瞬間についてお聞きしたいです。
橋立:直接感想をいただけると手応えを感じます。HPVセルフチェックキットに対しては、実際に病気を経験された方から「とても良い取り組みだと思う」という声をもらいました。
岩田:まだまだですが、健康意識が上がってきたのを感じています。健康診断や人間ドックで再検査となった場合に受診したり、オプション検診を受けたりする人が少し増えたかなと。
これは私事ですが、主治医に健康診断結果を見せるようになりました。保健師から再検査を受けた方がいいのではとフォローがあったことで、「それなら主治医に相談してみようか」と後押しをしてもらったと思います。今も保健師と産業医は再検査になった人にアプローチし、後押しをしてくれていますね。
武田:苦労した点についてはいかがですか?
橋立:女性の健康施策を進めていくと、「男性のがんに関する取り組みはないのか」「なぜ女性の健康だけなのか」といった声が上がることがあります。
理解を促すために女性のヘルスケア研修を行ったり、課長職を対象に女性の健康課題や女性特有のがんなど、女性の健康に注力する理由を説明したりすることで、解決できればと思っています。
施策を進める際の工夫
武田:自社ならではのカルチャーがある中で、施策を進める際にどのような工夫をしていますか?
橋立:女性のがんだから当事者の女性だけではなく、男性も含め周りの人にも理解をしていただくなど、対象の方以外への周知を心がけています。
周りの理解がないと検査を申し込んだり、休みを取ったりしにくいと思いますので、サポートできる環境を作るためにも、研修やe-ラーニングを通じて理解を深めていきたいと思っています。
武田:男女の更年期やメンタルヘルスなど、多様なテーマのe-ラーニングを用意していますよね。テーマはどう決めているんですか?
橋立:テーマは健康推進チームで話し合いをしたり、外部講師の方と相談したりしながら決めています。
また、2022、23年度と女性のヘルスケア研修の一環としてe-ラーニングを進めてきた中、短い時間ではどうしても伝えきれないという意見が講師からはありました。時間が長くなると業務に支障が出てしまうので悩みどころでしたが、2024年度は時間を伸ばし、更年期と女性のライフキャリア、女性のがんという3部構成にして発信をしました。
武田:社員の皆さんからの反応はいかがでしたか?
橋立:長いという意見もありましたが、意外と男性から「触れづらい話なので勉強できてよかった」といった好意的な意見をいただきました。時間が長いので毎年実施は難しいですが、やってよかったと思います。
武田:自社の工夫について、日立システムズエンジニアリングサービスさんはいかがでしょう?
岩田:従業員の負担にならないようなデータの取り方をするよう、気をつけていますね。アンケートに答えるのは面倒ですから、短く、パッと答えられるような内容にしています。
毎日のコンディションチェックについても、朝一番にメールが送信され、開いたら即回答画面が表示されるようになっています。皆さん朝イチでメールをチェックしますから、習慣にも組み込みやすいかなと思っています。
あとは、従業員の健康に寄り添う姿勢をきちんと見せることを意識しています。人事労務部門は社内で強い立場にあり、現場にとっては「やらされ感」が出てしまいやすいですから、理解を得るためにも必要なことだと考えています。
武田:「寄り添う姿勢」ができていると実感する瞬間はありますか?
岩田:電話やメールで相談があると、相談しやすい組織になれているかなと感じられます。その一方で、ただ待っていても不十分。「現場に足を運ぼう」とメンバーにはよく伝えていますね。まだまだですが、今後強化していきたいと思っています。
今後の取り組みについて
武田:今後取り組みたいことはありますか?
岩田:各種データからさまざまな因果関係を見出せると思っているので、データをしっかり取り、整理をしていきたいと思っています。例えば、コンディションチェックの数字の低さと睡眠の質の悪さには相関があるなど、すでに傾向は見えてきています。ここについても何か施策を打ちたいですね。
最終的には、健康経営の課題で困っているお客さまにも提案ができるようになれるといいかなとイメージしています。
橋立:予防の観点から検診やオーラルケアのチェックなど取り組みを進めていますが、「がん罹患者の方が実際にどのような制度を使って治療と仕事の両立をしたのか」などの発信は足りていません。具体的にどう制度を活用し、両立をすればいいのか、社内で広めていけたらと思っています。
武田:がんアライアワード受賞企業それぞれにノウハウがあると思いますので、横の連携もできるといいですね。
受賞企業の取り組みは事例集サイトで見られますので、そちらもぜひ参考にしていただければと思います。