これからがん対策に取り組む企業必見!がんアライ部勉強会参加企業2社による事例紹介【第3回勉強会レポート】 - がんアライ部
5月23日、がんアライ部の第3回勉強会を開催し、人事担当者の方を中心とした25名の方にご参加いただきました。前半では、過去のがんアライ部勉強会参加企業の中から、がんと就労に関する取り組みを行っている2社がプレゼンテーションを実施。本レポートでは、2社の取組事例をご紹介します。
>>勉強会後半レポートはこちら
“スモールステップ”として実施した2つの取り組み
1社目は、大手サービス系企業。従業員数は社員とアルバイトを合わせて約1万人、そのうち7割が女性です。同社の人事担当者によるプレゼンテーションは、「スモールステップを実施した例として参考にしていただければ」という一言からスタートしました。
同社ががん対策に取り組むようになった背景は大きく2つ。一つは従業員数が増えるにつれてがんに罹患する者も現れるようになりました。会社として安心して長く働けて、選ばれる会社を目指すという方針に基づき、健康経営にも取り組むことが決まったそうです。そしてもう一つが、乳がんで亡くなった小林麻央さんのニュースでした。
「がんに対する意識が高まったことで、がんをはじめ病気になった場合に使える制度について、社員からの問い合わせが増えました。改めて制度を振り返ってみると、まだまだサポートできる制度が少なかったんですね。将来的には様々な病気をフォローする制度を導入したいと考えていますが、まずは罹患率が高いがんに関する取り組みから進めるべきではと考え始めました。ちょうどそんな折に、上司ががんアライ部の第一回勉強会に参加し、他社の取り組みを共有してもらい、このがん対策という方向性は間違っていないと自信が持てました」
そこで「がんを早期発見する機会を作る」、「がん治療と仕事を両立できる環境を作る」の2つの目標を立てました。実際に同社が実施した取り組みが、次の2つです。
取り組み1. 女性のための健康セミナー
「女性特有の疾患の説明を常勤の産業医の先生から、人事からは休職時に使える社内制度や健康保険制度について説明をしました。約90分のセミナーで、54名が参加。このうち3名は男性です。セミナーの後にとったアンケートでは、5段階評価で『とても良かった』『良かった』を選んだ人の割合が94.3%と、非常に高い満足度を得ることができました」
取り組み2.追加健診の会社補助の導入
「弊社は『協会けんぽ』に加入しており、法定項目のみの健康診断。例えば乳がん健診のマンモグラフィーは2年に1回となっていますが、毎年受けたい方もいます。がんの早期発見を目的に会社補助の導入を決定し、現在は乳がん、子宮がんは上限5,000円まで、前立腺がんは会社が全額負担しています。前立腺がんは今年の4月から導入し、受診率は65.5%。女性は今年の1月から導入しましたが、受診者はまだ10名。受けない理由として、病気が見つかるかもしれないことへの不安感から戸惑いがある人と、単純に受けるのを忘れていたという人がいました。受診率を上げていくことは今後の目標ですね」
同社は今後もテレワークの導入、管理職を対象とした「女性のための健康セミナー」の実施、そして病気で休職する社員に対して人事担当者が1対1で制度について説明できる場を作るなど、引き続き取り組みを進めていくとのことです。
生命保険の“相互扶助の精神”で特別有給制度を会社全体で積み立て
次にプレゼンテーションを行ったのは、ライフネット生命保険、人事担当者の関根さんです。従業員数151名のうち20〜40代の従業員が9割を占めるものの、5%程度は60代以上。定年がないため、高齢の社員も働いています。
同社では年齢制限なしで前立腺がんと胃がんのリスク検診、乳がんと子宮頸がんの検診を、受診希望者に全額補助。2次検査も全額会社が負担しています。また、がんと就労に関する社内研修やワークショップも昨年から開始していますが、注目したいのが「ライフサポート休暇」です。
「ライフとワークのバランスをとって、心身ともに充実した状態で、意欲と能力を十分に発揮できる労働環境を実現することを目的とした休暇制度が『ライフサポート休暇』です。6つのメニューがあり、従業員数や利用度を分析しながら、毎年メニューを入れ替えることができようになっています」
この中でがんと就労に関する休暇が、「ナイチンゲール休暇」「ナイチンゲールファンド休暇」「ダブルエール休暇」の3つです。「ダブルエール休暇」は休職からの復職後に12日間の休暇を取得できる制度ですが、他の2つは生命保険会社らしさのある、少し珍しい制度です。
「本人や家族、人生を共に歩んできたパートナー(婚姻関係は問わず)など、大切にしたい人が病気になった時に最大3日間休暇が取れるのが『ナイチンゲール休暇』です。消化率は50%程度で、使いきれない場合は2年間積み立て、『ナイチンゲールファンド休暇』としてストックすることができます。これは個人ではなく、会社全体で積み立てているもの。困っている人はナイチンゲールファンド休暇から10日間の休暇を取得することができます。生命保険の相互扶助の精神を応用した人事制度です」
休暇以外にも、復職後に6カ月間、月5万円の手当を支払うといった金銭的な補助制度も導入。こうした制度を導入したことで、「会社が自分たちを大切にしてくれていると従業員が思ってくれたことが大きい」と関根さんは話します。
「『従業員を大切にする』というメッセージを伝えるために網羅的に取り組みを行った結果、がんに限らず、重い病気の疑いがあるときに、本人が相談に来てくれるようになりました。その上司からも問い合わせがくるようになって、病気のことを言い出しやすい風土が築けてきているのかなと感じています。事前に話をしてもらえるようになったことで、社員が急に休むといった事態を回避できる、副次的な効果もありました」
当日は同社の就業規則の中から、ライフサポート休暇に関する箇所を抜粋した資料が配布されました。新しい取り組みを行う際は、すでに実施している企業の事例を参考にするのが一番の近道。今後もがんアライ部の勉強会では、こういった事例紹介や人事担当者同士が情報交換できる場を提供して参ります。
【他社の事例もチェック!】
>>「がん対策に経営が無関心なのは損」ポーラと伊藤忠商事の経営陣が考えるがん支援施策
>>「がん罹患」が理由の退職はゼロ!経営破綻を機に取り組んだJALの健康経営
>>サッポロビールの事例から見る、“特別なことをせずにできる”がん治療と就労の両立支援
>>鍵は人事と医療スタッフの連携!中外製薬に聞く、『がんに関する就労支援ハンドブック』作成のポイント
文:天野夏海